ルミネッセンスとは

物質が外部からのエネルギーを受けて励起され、その後受け取ったエネルギーを光として放出する現象をルミネッセンスといいます。ルミネッセンスには、蛍光燐光とがあり、前者は励起エネルギーの補給を止めると同時に発光をやめますが、後者は励起エネルギーの補給が途絶えても、しばらくの間、発光が継続します(ひとつの光(光子)の寿命は、10−9〜10−1秒間くらいです)。しかし、継続時間のきわめて短い燐光もあり、蛍光との区別はあまり明確ではありません。

この現象を物質の原子レベルからもう少し詳しく説明すると、ルミネッセンスの発光は、エネルギーを吸収した電子(原子核のまわりの一定軌道上を運動している)が、より高い軌道に上がった後、別の軌道(またはもとの軌道)に落ちてくるときに、余分なエネルギーを人間の目に見える波長の光として放出する現象です。ここでいう軌道は、電子のもっているエネルギーの大きさを反映しており、電子はエネルギーを受けとると、よりレベルの高い軌道に移ります。エネルギーを失うと、レベルの低い軌道へと移り、その時、失った量に応じた光エネルギーを発します。燐蛍光体の分子や結晶は、励起エネルギーをいったん吸収し、そのエネルギーよりも低い振動数のエネルギーとして再放射する性質があります。とくに光を照射してルミネッセンスを生じさせたとき、照射光よりも波長の長い光が再放射されることを、ストークスの法則といいいます。例外として金属やヨウ素の蒸気などに光を照射して共鳴放射をおこさせたときには、照射した光線と同一波長(同一振動数)の光を放射します。

ルミネッセンスに必要な外部エネルギーは、さまざまな形で供給することが出来ます。光エネルギーによるものをフォトルミネッセンス(光ルミネッセンス)、熱エネルギーによるものをサーモルミネッセンスといいます。機械的エネルギー(摩擦、衝撃など)によるものはトリボルミネッセンス(トライボルミネッセンス)及びクリスタロルミネッセンス、種々の放射線のエネルギーによるものは、陰極線ルミネッセンス、陽線ルミネッセンス、X線ルミネッセンス、化学エネルギーによるものは、ケミルミネッセンス、生物の生活現象のエネルギーによるものはバイオルミネッセンス(生物ルミネッセンス)といいます。ルミネッセンス現象はすべて、その発光に発熱を伴いません(冷光)。

ルミネッセンスが最初に記録された鉱物はイタリアのパデルノ山で採れたボローニャ石(重晶石の一種)で、この石は太陽の光を吸収し、暗闇で燐光を放ちました。17世紀初め頃のことです。蛍光が初めて記録されたのは、蛍石(フルオライト)で、太陽光に含まれる紫外線を受けて、鮮やかな青い光を放ちました。18世紀の初め、この現象に注目したストークス卿は、この発光現象を蛍光(フルオルセンス)と名づけました。もちろんフルオライトに因んでいます。蛍光鉱物は、それぞれに特徴的な蛍光色を発します。これらの蛍光スペクトルは、周囲の結晶の場などに強く影響されるため、細い輝線にならず、幅の広い発光バンドになります。このバンドの極大波長やその強度を測定すれば、発光スペクトルや吸収スペクトルの場合と同様に、物質の同定・分析や構造決定などに役立ちます。その際、励起用の光源としては高圧水銀ランプや高圧キセノンランプなどの短波長の放射の強力な光源が用いられます。また、正確な測定のためには、励起光が単色光である必要があり、光源の放射を第一の単色光によってスペクトルとし、その波長を変化させながら、試料物質に入射させ、そのつど蛍光スペクトルを測定します。

燐光の語源は、黄リンが湿った空気中で自然に発光している青白い光、または生体物質が腐敗・酸化してゆく過程で発光する現象からきており、このようなゆるやかな酸化現象(多くは自動酸化)には発光を伴うことがよくあります。これは酸化反応による化学ルミネッセンスの一種です。上述のように、蛍光と燐光は実際には区別をつけがたいのですが、原理的には発光のしくみによって定義され、外部エネルギーによって励起された状態がただちに安定状態に移るときに発光する光を蛍光と呼び、励起状態から三重項状態とよばれる準安定状態に移り、ついで安定状態に移るときに発する光を燐光とよぶことになっています。ホタル・ウミホタル・ヤコウチュウ・発光バクテリア、ホタルイカなど、生物ルミネッセンスといわれているものも燐光として扱われて、一般にルシフェラーゼが酵素(触媒)の作用をして、ルシフェリンがゆるやかに酸化されるものと考えられています。