鉱物とルミネセンス

ある種の物質に紫外線ランプの光などがあたった結果生じる発光現象を、ルミネッセンスといいます。この一風変わった現象は、多くの場合、暗闇の中でだけ観察することができますが、ときには蛍光が非常に強いため日光の下でも観察出来ることがあります。ルミネッセンスの色は、白昼光の下で観察されるさまざまな色と同じように、多くの場合、「活性因子(アクチベータ)」と呼ばれる遷移元素イオンやさまざまな不純物に起因しています。活性因子の種類と量が、蛍光色と蛍光の程度を決定します。

活性因子は紫外線やX線、あるいは電子線に晒されることによって励起され、蛍光(フルオルセンス)作用を起こします。ときには、紫外線などの入射エネルギーが途絶えた後でも、発光が持続することがあります。それは何分の1秒のことかもしれませんが、数分間に亘って続くこともあります。きわめて感度の高い測定器を用いるならば、ある種の鉱物が数年にわたって光を発し続けているのを発見することもあるでしょう。こうした現象もルミネッセンスの一種であり、特に燐光(フォスフォルセンス)と呼んでいます。

すべての鉱物が蛍光するわけではなく、むしろほとんどの鉱物は蛍光しません。蛍光する鉱物では多くの場合、蛍光現象の原因となるごく微量の不純物(活性因子:アクチベータ)を見出すことができます。蛍光現象は、たいていその鉱物本来の成分以外の物質に起因しており、同じ鉱物種の鉱物標本でも、すべて同じように蛍光するとは限りません。たとえば灰重石をとってみると、CaWO4、つまり100%カルシウムとタングステンと酸素から構成される純粋無垢の灰重石は蛍光しません。青白い蛍光を発するのは、タングステンの一部がモリブデンに置き換わっている場合だけです。同様に、一般的に蛍光することが多い方解石や螢石にしても、そのルミネセンスは、本来の元素成分以外の成分によって蛍光を生じているのです。ただし、そうした不純物(活性因子)の量(割合)は、ある制限範囲内になければなりません。その範囲をはずれると、蛍光は弱まるか、まったく発生しなくなります。たとえば、アメリカ、ニュージャージー州フランクリンの方解石は、含有物のマンガンが活性因子となって赤く蛍光しますが、その量はおよそ3%前後に収まっている必要があります。同地の方解石で、マンガンを5%以上含むもの、あるいは1%以下しか含まないものは、まったく蛍光しないのです(実はマンガン以外にも鉛などの補助的な活性因子:コアクチベータ/センシタイザも必要なのですが)。方解石は、特に活性因子となる不純物の影響を受けやすい鉱物で、各地にさまざまな蛍光色を持つ方解石が産出しています。一方、純粋な化学組成の鉱物が蛍光する例はほとんどありません。

このように、蛍光現象は化学成分の微妙な組み合わせによって起こるのですが、ある種の鉱物では、蛍光現象は鉱石の選別や同定といった目的で実務上、かなり信頼性の高い方法として用いることが出来ます。例えば、ジンバブエのビキタでは、紫外線による蛍光を利用して、ユークリプト石(「光る石」の同項参照)をリチウムの鉱石として採掘しています。、この鉱物は昼光下では石英とまったく区別がつかないのですが、紫外線をあてると、特徴的なピンク色の蛍光を発するので簡単に識別出来るのです。

燐蛍光体(定義は後述)として知られている鉱物には、亜鉛、カルシウム、カドミウムなどの珪酸塩、燐酸亜鉛、タングステン三カルシウム、硫化亜鉛、アルカリ土類金属元素の硫化物などがあげられます。具体的な鉱物名は、「光る石たち」のページを参照してください。これらの燐蛍光体は蛍光灯、テレビのスクリーン、放射線計測用のシンチレーション計数管用蛍光体、エレクトロルミネセンスを利用した光増幅器など、新しい用途が数多く開けています。(例:ユーロピウムの項参照)。

通常、鉱物の蛍光を観察するのには紫外線を発生する特殊なランプや装置を使いますが、すべての蛍光鉱物が、同じ波長の紫外線に反応するというわけではありません。ある鉱物は、波長の長い紫外線をあてたときにしか蛍光しないかもしれないし、また別の鉱物は短い波長の光線にのみ蛍光するでしょう。(紫外線照射器の項参照)

また、紫外線を当てなくてもルミネッセンスが観察できる場合もあります。ある種の鉱物は加熱することによって(通常50℃から475℃の範囲)、熱蛍光(サーモルミネッセンス)現象を起こします。このタイプの発光現象も、やはり活性因子の働きによって生じるもので、非金属鉱物である、燐灰石や方解石、螢石、リチア雲母(Lepidolite)、その他ある種の長石などで確認されています。また摩擦したり、砕いたりしたときに蛍光する鉱物もあります。この現象をトリボルミネッセンスといい、螢石や閃亜鉛鉱を採掘する暗い坑道の中で、工夫たちがツルハシを振るうと、砕かれた鉱石が不気味な光を放つことがあるのは、この性質によるのです。非金属鉱物でへき開の明瞭な鉱物に認められることが多く、アンブリゴ石や方解石、リチア雲母、ソーダ珪灰石で顕著に観察されています。