しずく10.

寝たきりだったおじいさんが、いよいよいけなくなったとき、ぼく一人を部屋に呼んだ。そして、青っぽい灰色の石を渡して、「取りにくる者が現れたら、ありがとう、といって返しておくれ」と言った。

三十五日の法要が済んだ夜、石を出して眺めていると、何かが部屋に入ってきた。ぼくに触れると、また出ていった。触れられたとき、「今度は、おまえにあずけておく」と言ったような気がした。

それからずっと石を持っているけれど、何も変わったことは起こらない。ぼくが死ぬときは、太郎に渡そうと思う。