しずく11.

Pさんは、本格的な鉱物収集家だ。全国の鉱山(跡地も)を巡り歩いて知らないところはない。コレクションはほとんど自分で採ってきたもので、丁寧に汚れを落として、厚紙で作った小箱に入れ、詳しいラベルを添えてきちんと整理している。その中で、ひとつだけ、ラベルのついてない石がある。採ったところは分かっている。誰がみても黄鉄鉱以外には見えない。でも、Pさんは絶対にラベルをつけようとしないし、理由を聞いてもあいまいに笑っているだけだ。
誰いうとなく、その石をPさんの青春という。何か思い入れがあるらしいんだな。