1856年8月13日
於イギリス、チェルトナム 大英科学振興協会 機械金属部会 総会
「ヨーロッパ鋼の世紀」 中澤護人著 東洋経済新報社 1987(品切中) より引用
わが国の製鉄業は非常に重要な地歩を占めるにいたり、それで、わが国の国民的産業のこの部門における発明改良は、どんなものであれ、すべて一般の関心を呼び起こさずにはおかなくなっているのであり、そして、このことが、今私がここで簡単な原稿を不完全なことを知りながら、あえて読む充分な言い訳になるだろうと信ずるのであります。
過去2年間、私の注意はほとんどが鍛鉄と鋼の製造に向けられたのでありました。8カ月か9カ月前までは、まったく見るべき成果をあげることができませんでした。たえず反射炉をこわし、またつくり直し、毎日毎日、大量の鉄を使って実験に精力をすりへらし、もうこれ以上耐えられないというところまでいきました。しかしながら、この前途暗澹たる時期になされた無数の観察は、当時私の注意をひきつけていった新しい考え方の実行可能性を確かめるのに役立ったのでありました。
それは、私が反射炉にさまざまの改良を加えることによって得ることができた高熱よりももっと強い熱を、反射炉も使わず、燃料も使わずに発生させることができるにちがいないということ、新しい方法によれば、作業の過程で鉱物性燃料のおよぼす有害な作用が避けられるばかりか、燃料そのものを使わずにすむということでした。2,3の予備実験を10ないし20ポンド(4.5〜9Kg)の鉄鋼で行い、そして実験には著しい困難がつきまとったのでありますが、とにかく成功の間違いのない兆候が見えたので、私はすぐに、7セントナー(315Kg)の銑鉄を30分で可鍛鉄に変えうる装置をつくることになりました。このような大量の銑鉄で作業すると、10ポンド(4.5Kg)という小さな実験室的実験につきまとっていた諸困難は完全に消え去りました。
この新しい探求の分野において、私は次のような仮定から出発しました。すなわち、原料銑鉄は約5%の炭素を含有するということ、そして炭素は白熱の高温において、酸素があれば、かならずこれと化合し燃焼するということ、この燃焼は湯の中の炭素が酸素と接触する量に依存する速度で進行すること、最後に金属の得る温度は酸素と炭素が結びつく量と速度によってきまってくるだろうということ、結論として酸素と炭素とが湯の中のできるだけ広い範囲で相互に反応し合うようにしさえすれば、これまでわれわれの最大の炉でも達せられなかったような高温が発生するにちがいないという推定だったのであります。
この説を実際に試してみるために、私は直径3フィート(0.9メートル)、高さ5フィート(1.5メートル)で、普通のキュポラにいくらか似た円筒型の炉をつくりました。この炉の内側を耐火煉瓦で裏張りし、炉底から約2インチ(5cm)上のところに5本の羽口パイプを差しこみました。その先端はよく焼いた耐火煉瓦でつくり、羽口径は約8分の3インチ(1cm)でありました。パイプは煉瓦の裏張りに外側から差しこまれ、消耗したら数分で除去し、新しいものに取り替えができました。炉の一方の側には、ちょうど真中の高さのところに、原料銑の装入口があり、反対側の底にはローム(粘土)でとめた湯出口があり、ここから精錬が終了したときに鉄を出すのであります。
実際には、この転炉(コンヴァーティング・ヴェッセル)はどんな寸法にでも意のままにつくることができますが、私は各装入(チャージ)量が1トン以下ではいかず、また、5トン以上であってはならないと思います。さらに、この炉はこれを溶鉱炉(ブラスト・ファーネス)の出銑口の近くに据え付け、溶銑を樋を通して流し込めるようにするのがよいでしょう。1平方インチ約8ポンドないし10ポンドの圧力で空気を送風できる送風機が必要であります。これと羽口との連結がすむと、それで転炉の作業開始の構えができあがるわけでありますが、耐火煉瓦を新たに裏張りした場合には、特にシャベル2,3杯のコークスを中に入れて燃やし、そのあとで、中の炭を湯出口から注意深く掻き出し、この口をロームでよくふさぐ。炉はこれで、いつでも作業をはじめることができ、煉瓦の裏張りが時が経って駄目になり、新しく裏張りする必要が生ずるまで、何回でも、まったく燃料なしで作業を続けることができるのであります。
さきに、私は炉底のすぐ上のところに羽口をつけたといいましたが、溶銑は羽口からほぼ18インチ(45cm)つまり2フィート(60cm)ほど上まで溜ります。したがって、湯が羽口の穴の中に入ってこないようにするためには、溶鉱炉から出した溶銑を転炉に流し込む前に送風をはじめる必要があります。送風をはじめ、溶銑が流し込まれると、やがて炉内で急速に沸騰(ボイリング・アップ)するのが聞こえるのであり、湯は激しく煮えくりかえり、動きまわり、その力で炉をふるわせます。転炉の口からは、火焔が流れ出し、それにわずかのまばゆい火の粉(スパーク)が伴っている。この状態が約15分から20分つづき、その間、空気中の酸素が銑鉄中の炭素と化合し、炭酸ガスとなり、同時に強力な熱を発生するのであります。
さて、この熱が湯の内部に発生し、無数の泡立ち(バッブルズ)によって湯全体に拡散し、金属(メタル)はこの熱の大部分を吸収してその温度が凄く上昇するにいたります。さきにのべた15分ないし20分が経過したときには、湯中に物理的(メカニカル)に混入し全体にちらばっているものと思われる炭素部分が完全に消費され、さらに温度が非常に高くなるので、化学的(ケミカル)に結合している炭素も今や鉄から分離しはじめるのでありまして、このことは、炉の口からほとばしり出る焔の量のすごい増加ですぐにそれとわかるのであります。炉内の湯は、今や、もとのレベルから数センチ盛り上がり、軽い泡だらけのスラグができて、それが大きな泡の塊りとなって、口から投げ出されます。溶滓(シンダー)のこの激しい噴出は、約5分ないし6分つづくのでありますが、この猛烈な現象が終わると、沸騰に伴ってかならず生ずる火の粉と溶滓の雨(シャワー)は間断のない強い火焔に変わっていきます。
こうして行われる炭素と酸素の急速な結合によって、湯の温度はいっそう上昇し、一方、現存炭素の量が減少しますと、酸素の一部分は鉄と結びつく余地ができ、これが酸化して酸化物に変わります。金属が得たこの法外な高温では、この酸化物は形成されるや否や、溶融し、銑鉄中に混在している土類(アーシイ・ベース)に対する強力な溶剤(ソルベント)の役目をはたします。はげしい煮えたぎりによって、滓(スコリア)と金属とが充分に混ざり合い、金属のあらゆる部分が溶けた酸化物(フリュード・オキサイド)と接触し、こうしてこの酸化物は金属から原料銑鉄中に結合していた珪酸(シリカ)その他の土類を洗い落し、鉄をすっかりきれいにするのであります。一方、硫黄その他の揮発性の物質は、普通の温度だと鉄中にしっかり固着していますが、これが高温のために除去されるのでありまして、硫黄は酸素と化合してガス体の硫黄酸化物(サルファラス・アシッド・ガス)を形成して除去されます。[やがてベッセマー法最大の困難の一つであることが判明するテーマをなんと簡単に割り切っていたことか!!これが発明というものであろう=中澤]。
原料銑から可鍛鉄インゴットをつくるときの損失(鉄損失)は、4回の実験によりますと、12.5%であることが確かめられました。しかしこれには圧延による損失を加えなければならないでしょう。それでも全部で18%そこそこで、従来の方法では約28%の鉄損失を出しているのであります。ところで、この損失の大きな部分は、沸騰によって炉外に投げ出された鉄分の豊富な酸化物をカーボナシアス・ガスによって処理して回収できます。これらのスラグは鉄の小さな粒を無数に含有していることがわかり、しかもただ機械的に混入しているだけのことでありますから、回収はきわめて容易であります。
私はさきに沸騰後に間断のない強力な火焔が続くと申し上げましたが、これが約10分間なんら変化もなしに持続し、そして急にパッタリとやみます。この火焔の杜絶が現れると、作業者は精錬が完了したこと、つまり銑鉄が純然たる可鍛性の鉄に変わったことを知るのでありまして、それを合図に、転炉の湯出口をあけ、可鍛鉄の湯を下においてあるインゴット鋳型の中に流しこみ、どんな寸法や形のものにでも、望みどおりのインゴットにすることができます。
こうして製造された鉄塊中には滓、酸化物その他不純な物はまったく混入していないのでありまして、普通のパドル鉄でつくった束ね鍛錬鉄よりもはるかに純粋であり、パドル鉄の製造行程のもっと先のほうまで進んだ段階のものといえるのであります。そして、なんらの攪拌作業または特別の技能をも要しない簡単な方法で、しかも、たった一人の労働者で、3トンないし5トンの銑鉄が30分ないし40分で数個の可鍛鉄の鉄塊(パイル)つまりインゴットに変えられるのであり、それには、現在これと同量の銑鉄を装入する予備精錬炉(ファイナリー・ファーネス)で使用される送風量の約3分の1しか消費せず、しかも、銑鉄中に含まれるものよりほかにはまったく燃料を使用しないでよいのであります。
溶けた銑鉄の性質をよく知っている人にとって、溶銑中に冷たい空気の衝風を圧入するだけで、溶銑が炭素の全部を失ったのちにも、なお完全な流動状態にあるほどにその温度を上昇させることができ、しかも、現在の精錬法で達しうる最高温度をもってしても糊状の塊に軟化するにすぎない可鍛性の鉄になるということは、たしかに驚くべきことだといわなければなりません。
それどころか、私が適当な形の転炉と適当な配分の送風とによって達することのできた熱は法外のもので、金属を湯の状態に保持できるばかりでなく、この方法でできる造塊屑その他の屑鉄(スクラップ)を再溶解し、こうしてこれらの屑鉄をなんら労働や燃料を要せずして、挿入溶銑とまったく区別のないインゴットにすることができるのであります。
この屑鉄再溶解のために、小さなアーチ型の部屋が転炉の上部につくられましたが、この部屋は溶銑炉の煙道頭部(トンネル・ヘッド)にちょっと似た格好をしています。横側に二つまたはそれ以上の口をもっており、床は下の炉の口に向かって傾斜をなしております。精錬の終わった可鍛鉄を転炉から湯出ししたら、すぐに労働者はつぎの装入に使う屑鉄の数片を上の部室に入れ、下の炉に通ずる口の周囲に積み重ねます。
これがすんだら、溶銑の装入にかかり、ふたたび作業が開始されます。沸騰がはじまる頃までには、棒の端切れその他の屑鉄は白熱になり、沸騰が終わる頃には、その大部分が溶けて下の湯の中に流れ込んでしまいます。まだ残っている鉄片は作業者が湯のなかに押し入れ、作業が完了するころには、全部が湯の中に溶けこんでしまうのであり、こうしてすべての屑鉄が鋳物屑も可鍛屑鉄も、みな全然損失なしに、また特別の費用も要せずに役立てられるのであります。
この新しい方法で銑鉄がどんな熱を発生させることができるか、その威力を示すひとつの例として、実験中に起きた一事件を指摘することができます。
私が径の小さな羽口を使えるかどうか試していたときのことです。私の選んだ寸法があまりにも小さすぎたために、1時間45分も空気を吹きこんだにもかかわらず、湯を沸騰させる熱を発生させることができませんでした。そこで実験は中止されました。その間、鉄の3分の2は固まってしまい、残りは外に流し出されました。ついで、もっと大きな羽口パイプが差しこまれ、溶銑が新たに炉に装入されましたが、今度は、前に固まっていたものを完全に再溶解させることができ、しかも全部が湯出しされたときに、この湯は普通の場合と変わりなく、強い目をくらますような、あの電気の光に特有な輝きを示したのであります。
鉄の製造を熟知している人々には、私の述べた可鍛性の金属のインゴットには、パドルされた鉄の内部にあるような、他の部分と混ぜ合わせるのに多大の圧延(ローリング)を必要とする硬い部分または鋼質(スティーリイ)の部分がないだろうということがわかるでありましょう。また、このようなインゴットの中には、なんらの滓(シンダー)もなく、純粋で、完全に質が均一でありますから、滓を塊の内部から搾り出すために余計の圧延を必要とせず、繊維質の発展のために必要な圧延だけでよいのであります。したがってこのことからつぎのことが結論できます。つまり、多数の鉄片を一緒に鍛接してくっつけて一個の市販棒(マーシャントバー)またはレール棒にするかわりに、一個のインゴットから数個の棒またはレールをつくることになれば、もっとずっと簡単であり、浪費的でなくなるであろうということであります。疑いもなく、このことは、もし従来の方法がパドラーのつくりうる鉄塊(ボール)の大きさで制限されなかったならば、ずっと前からやられたにちがいないことだったのであります。
新しい方法で大きな塊を容易につくることができるので、従来の作業の方式ではつくれなかったような大きな棒をつくることができるようになるでありましょう。同時に、この新方法は、今までにない強力な機械の使用を許し、このことによって大量の労働の節約になり、製造工程が迅速化されるでありましょう。
私はこうした事実については、単にゆきずりに指摘するというだけにとどめたいと思います。なぜなら、私がこの製造の分野で得ようとしている特許はまだ公表の段階にきておりませんので、これらの改良の詳細に入ってゆくことは、当面の私の意図ではないからであります。
しかし、この方面の事項から離れる前に、ルツボ鋳鋼(キャスト・スチール)を他の鉄から区別する2,3の特性について皆さんのご注意を促したいと思います。すなわち、金属の完全な質の均一性、非金属介在物による割れまたは疵がまったくないこと、その原料である滲炭鋼(ブリスター・スチール)と比較して抗張力(コヘシブ・フォース)と弾性(エラスチシティ)とがいっそう大であることなどでありまして、これらの特性はもっぱら、ルツボ鋳鋼が溶融(フュージョン)であり、インゴットへ造塊されることから由来するのであり、新しい方法で溶融状態においてインゴットに造塊された鍛鉄も、これらの特性のすべてを同じように獲得するのであります。滲炭鋼は、そのものが圧延された鍛鉄棒を原料としてつくられるのですが、これをさらにどんなに圧延してみたところで、ルツボ鋳鋼のインゴットを単に元の長さの10倍ないし20倍に伸ばしただけのときに得られるのと同じ質の均一(ホモジナス)な特色をこれに与えることができない、ということを忘れてはなりません。
可鍛鉄を製造する新しい方法に関連したもっとも重要な事実の一つは、これによって製造された鉄が、すべて木炭鉄(チャコール・アイアン)という名で呼ばれているあの性質を持っていることであります。すなわち、その製造になんらかの木炭が使用されるからというのではなくて、鉱石製錬(スメルティング)につづく全製造工程がなんらの鉱物性燃料との接触もなしに行われ、その結果として、この種の燃料を使った場合にかならず鉄に与えずにはすまないあの有害な諸性質を鉄がまったく持たず、そのために、木炭銑と呼ばれているあの性質と同じ性質を持っているということであります。同時に可鍛鉄のこの製造方式によれば、大きな軸(シャフト)、クランク、その他の重量物を製造することが、きわめて容易となるのであります。普通の鋳鉄(キャスト・アイアン)から現在処理できる手段で鋳造しているどんな重さのものでも、この溶融可鍛鉄でもって鋳造できるのであり、また必要などんな形にでも鋳造できることは明らかでありまして、そのためには、ただこのような大きな金属塊を処理できるように、機械装置を大きく、強力にしさえすればよいのであります。
ちょっと考えただけでも、現在、銑鉄の製造が、その規模において、他との釣合を絶した大きさに達していることに気がつかれるでありましょう。鉱石の溶解に使われる炉は、もとは小さかったのでありますが、それが現在は巨大なものとなり、一度に200ないし300トンの原料で作業し、一回の出銑で10トンの溶銑を湯出しするまでになっております。製造家たちは、このように高炉の容量を大きくしつづけ、そのためにこれに比例した大きな送風機を使用し、これらの手段によって、全力をあげて生産費を下げております。大きな高炉だと、それと同量の銑鉄を生産する多数の小さい高炉に要する労働量よりも、はるかに少ない労働量で足りるのであり、また燃料、送風、修理の費用も減少し、一方また、たくさんの小さい炉を使ったのではけっして達することのできないような製品の質の均一性が確保されるのであります。
製造家たちは、これらの利点に完全に気づいているのでありますが、ところが、その後につづく製造の工程については、鉱石製錬の部門であれほど利益があると認めている原理にまったく相反する規模で作業を行なうままに今なお放置せざるを得ないでいます。実際、現在までパドル法よりもよい方法は知られておらず、そしてこの方法だけと400ないし500ポンド(180Kg〜227Kg)が、一度に作業できるすべてであり、そして、こんな少量でさえも、約70ないし80ポンド(31Kg〜36Kg)の同じ形の塊(ボール)に分割され、その各々が人間の手作業によって造型され、仕上げられ、炉内で注意深く監視され、気を配られ、さらに炉から一つずつ引き出して、念入りな作業によって滓が搾り出されるのであります。製鉄の工程の最初の段階(銑鉄製造)で、作業が広大な規模とすばらしいスケールで行われていることを考えるならば、あとの部分の製造工程をすこしでもこれと釣合のとれたレベルまで近づけてゆき、この産業をあのように長い間しばりつけてきた足かせから解放するために、ほとんどなんらの努力もなされなかったといってもよいくらいだということは、驚くべきことであります。
この演説を終わるまえに、新しい方法と結び付いている一つの重要な事実に皆さんの注意を喚起したいと思います。それは、この方法が鋳鋼の製造について有する独特の利便ということであります。沸騰にすぐ続く段階で、銑鉄の全部が普通の質のルツボ鋳鋼の状態に移行し、なお吹精をつづけると、鋼は残り少なくなった炭素を失っていって、硬鋼から軟鋼に、さらに軟鋼から鉄に、そして最後に非常に軟らかい鉄にと、つぎつぎに移行してゆき、したがって精錬時間に応じて、どんな質の鋼をも鉄をも製造することができるのであります。特に、私が区別して半鋼(セミ・スチール)と呼んでいるものは、硬さにおいて、普通の鋳鋼と軟鉄とのほぼ中間にある特殊なものであります。この金属は軟鉄よりもいっそう弾力性(エラスチック)があり、それで永久そりを生じませんし、さらにいっそう硬く、それで軟鉄のように簡単に磨耗、またはへこみません。しかもまた、普通の鋳鋼のように脆くなく、加工が難しくありません。
これらの諸性質によって半鋼は、軽くて強いものが要求されるところとか、あるいは軟らかくて葉状構造(ラメラー・ストラクチュア)のものだとすぐ駄目になってしまう鉄道軌条のように、摩滅のはげしいところとか、そうしたものに使用するのに際立って適しております。半鋼は、転炉内での酸化損失が軟鉄の場合よりも2.5%少ないので、製造費がいっそう低くてすむでしょう。しかし、圧延がすこし手数がかかるので、トン当たりの製造費は、正しくは、軟鉄と同じだとみなすことができます。しかし、その引っ張り強さは棒鉄よりほぼ30ないし40%大でありますから、その結果、たいていの用途に対して、いっそう少ない重量のもので間に合い、したがってこうした使い方をすれば、半鋼はわれわれが現在知っているどんなものよりも安い金属ということになるでありましょう。
最後に、私がここで皆さんにお知らせした事実は、単なる実験室的実験から引き出されたものではなく、わが国の大製鉄所で実施されている生産量のほぼ2倍のスケールで作業した結果であること、つまり、普通のパドル炉では2時間に4.5セントナー(200Kg)しか製造できないのに、私の使った実験装置では30分で7セントナー(315Kg)を製造するのであり、パドル炉ではこの4.5セントナーが6個のボールに分割されるのでありますが、転炉でつくったインゴットまたはブルームは重さが10個のパドルボールにほぼ等しい、長さ30インチ(80cm)、断面10平方インチ(64平方cm)のなめらかなプリズムであること、こうした実験の結果であることを述べて、私の話を終りたいと思います。
付記:ベッセマーは記念すべきこの講演で、新しい可鍛鉄(錬鉄)の製造方法を詳しく述べ、その化学的な変化についても考察を与えていますが、後に明らかになるように、ベッセマー法で得られる高温は、ひとり炭素の燃焼によって生じるのではなく、銑鉄に含まれる珪素やあるいは燐などからも得られます。また可鍛鉄や溶鋼の優秀な性質の確保に、銑鉄中の含有成分は重大な影響を与えるのであり、この点は彼が当時考えていたほど単純な問題ではありませんでした。
実際、中澤氏が指摘する通り、鉄中の硫黄は(そしてもうひとつの有害物質である燐も)、ベッセマー法の高温では除去出来ないのです。幸いなことに、ベッセマーは講演発表の段階では、その事実に出会いませんでした。たまたま燐や硫黄分の少ない銑鉄で実験していたからです。これらの問題は、後にベッセマー法の工業化と普及にあたって最大の難点となりました。
考察の未熟はあるものの、ベッセマー法の本質と利点は、講演の中ですでにあますところなく語られています。 (SPS)
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