このページは、埼玉大学、渡辺 邦夫氏の講演、「21世紀に日本人は世界に何を発信できるか −新たな国際交流のために−」(WWW上で閲覧可能。ロボット型全文検索エンジンを通じてご参照ください)に記されている、タイのスズ鉱山跡地の汚染についてのコメントから、筆者(SPS)なりに要点をまとめたものです。
なお、以下の内容が、原著者の主張あるいは意図を反映したものとなっていないことがあっても、それは筆者の責任であり、原著者には一切関係ないことをお断りしておきます。
マレー半島のスズ鉱山は、現在までも続く、多分世界最大の環境破壊を引き起こしています。タイ南部のプーケット島のやや東にナコンシ・タマラートという町があります。ここは、スズ鉱山のあった町で、現在、深刻な水質汚染に見舞われています。
スズ鉱山がなぜ大規模環境汚染を起こしたのかと言いますと、東南アジアのスズは堆積鉱床で、その採掘には、まず地表面に大きな穴をあけます。穴をあけると、水脈が露出して地下水が湧出し、池のような状態になります。ここに浚渫船を浮かべて掘削し、土砂を船に運びあげます。そして簡単な選鉱をして残った土砂を捨てるという作業をします。浚渫を行うと、廃棄した屑泥(ずり)が大量にたまることになり、この上に新しい家が建ったりします。この鉱床の中にスズだけしか入ってなければいいのですが(スズ自体は無害です)、だいたいスズを含んでいるような鉱石というのは、砒素・カドミウム・マンガン・鉄など、いろんな重金属を含んでいます。これがまだ地層に入っている間は、そんなに地下水に溶け出していないのですが、ひとたび浚渫作業で引っ掻き回しますと、重金属が大量に溶け出し、非常に激しい地下水の汚染を引き起こすのです。地下水はもう飲めなくなります。これが一番大規模に行われた鉱山開発です。
もう1つ、掘削泥をトラックで運び、「ねこ流し」という簡単な比重選鉱をやって、残りを捨てるというやり方もあります。「ねこ流し」は現在でも行われていて、大型トラックが土砂を運んできます。この土砂を水に混ぜて桟のようなところから落とします。落ちたものが溝に流れてゆき、スズは重いですから床の方に溜まります。こうして簡単な選鉱ができるわけです。こういう所に新しい村、新しい家が建っていくわけで、このとき下にある地下水は、かなり重金属に汚染されています。実際どの程度のものか、ロンピブン村の例を紹介します。この村ではいたる所で浚渫が行われました。そのうちもっとも盛んに採鉱された12番区画でのイギリスの方の調査ですが、100人に対して健康診断をしたら、砒素中毒症状が50人に見られ、53%以上が砒素中毒を起こしていたということです。この地域には十数万人の住民がいますが、619人の抜き取り調査をしたら、3割くらいが砒素中毒を起こしていました。ものすごい広域に地下水の汚染が広がっているわけです。
西日本新聞が、その砒素汚染の状態を報告した例で、日本人のお医者さんが言ってるのですが、ここの問題は、砒素中毒の全体像を掴み取ることは困難だったと。公害の規模が大きすぎる上、汚染源の鉱山跡がいくつもあって、広がりがまったく見えないというのです。実際いろんな所を歩いてみると、鉄分の溜まった川がある。それから二酸化マンガンを含んだ地下水が流出している。こんなところがいたるところにあります。小さな小川では、まだおばさん方が「わんかけ」という簡単なスズの比重選鉱をやっていて、村では地下水がまったく飲めません。井戸の水はせいぜい洗濯ぐらいにしか使えませんので、雨水を瓶にためて飲んでいるという昔ながらの状況です。
また、このあたりには「ねこ流し」で大まかに選鉱した後、さらに純度を上げるための選鉱場の跡地がたくさんあります。そうした場所では、亜ヒ酸(猛毒)の白い粉が、どこにでも結晶化している状況です。
「じゃ、どうすればいいの」ということですが、あまり重金属に汚染されていない川から水道を引っ張ってくるというのが、とりあえず今、できている方法です。ただ、鉱山のずり捨て場にどんどん家が建ち、新しい住民が入ってきていて、そちらにはとても手が回らない状況です。
汚染された土地そのものはどうするのかというと、植林による土壌浄化という非常に息の長い計画を持っています。草とか木を植えて、地中の重金属を吸い込ませ、植物の組織の中へ固定するわけです。その木や草を刈って燃やせば重金属が取れる。それをまた別に処分しようという方法です。例えば土の中の砒素を除くため、成長の早いユーカリの木を植え、大きく育つと伐採してパルプにする。そういう方法がいろいろ考えられています。
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