「鉱物及地質学講話」 水野彌作著(昭和5年 南光社)より

鉱物の化学性

鉱物の化学的性質を調べるには,諸種の試薬を用い、或いは吹管分析法によって鑑定するのである。

◆吹管分析法

吹管分析は鉱物の定性分析の簡易な方法で、鉱物鑑定の一方法である。吹管は金属性の細管であって、その一端に白金の尖管を附け、他端にはラッパ状の吹口がある。この管で火炎を吹くと強い熱を生ずる。普通にはアルコールランプを用いる。

アルコールランプ、ロウソク等の炎は形状や大小に多少の相違はあっても、何れも之を3部に分けることが出来る。すなわち炎の中の大部分を占める赤黄色の部分と、心の周囲及びその上方にある青色の部分と、殆ど眼に見えぬ最外縁の部分とである。

外炎(酸化炎)........無色で熱は最も強く酸化する働きがある。

内炎(還元炎)........光輝が最も強く還元力すなわち酸化物の酸素を取る働きがある。

中心部............酸化の起こらぬ部分で、熱も光輝も弱い。

中心部は光輝も熱も弱いから、実験上には何の役にも立たぬ。それはアルコールランプで言えばアルコールの蒸気、ロウソクなら熔けたロウが糸心に吸い上げられて、心を離れた所で、未だ少しも酸素に触れぬため、殆ど光も熱も弱いからである。

還元炎 内炎はその外囲を包む外炎のために空気に触れることが十分でないから、燃焼が不完全である。炭素の一部は微粒となって出で、これが強熱せられて輝くのである。光輝が強い位であるから熱も高い。内炎のことを還元炎というのは、酸化物の酸素を取って還元するからである。内炎がいかにして還元の働きがあるかと言うに、強熱せられている炭素のために、光と共に高い熱を発し、しかも酸素の供給が十分でないから、その熱せられた炭素は酸素と化合しようとする力が強い。ここへ酸化物を持っていけば忽ち酸素を取られて還元するのである。吹管の白金の尖端を炎より少しく離して吹けば、炎は倒れる。その光の強い部分即ち内炎で物を熱するのである。

酸化炎 外炎は炎の最外部で、内炎で燃えなかった炭素や気体が十分の酸素を得て、完全に燃える所であるから熱は非常に高い。併し固体が存在せぬから光輝は全くない。外炎のことを酸化炎というのは、酸化させる力があるからである。外炎が、いかにして酸化の働きがあるかというに、熱が非常に高く、その周囲には酸素が無限にあるから、酸化すべきものは忽ち酸化してしまうのである。外炎は熱が最も高く、而してその外炎の最も多い部分は炎の先端である。ゆえに物を強熱するには先端に近い部分がその目的を達することになる。吹管の白金先端を炎の内部に突っ込み、吹いて十分に炭素を酸化させると、黄色炎の直ぐ先に酸化炎を生ずるのである。

◆閉管中の実験 試験管のようなガラス管の中に鉱物の小片を入れて熱すれば、水を含む時は水を放ち、蛍石は燐光を放ち、硫黄、砒素類は臭気を放つ。閉管の目的はなるべく空気に触れしめずして鉱物を熱するのである。

◆開管中の実験 両端の開いたガラス管を長さ7,8センチに切断し、約120度位に曲げ、よく乾燥して、その中に試験すべき鉱物の小片(輝安鉱が最もよい)を入れて熱すれば、単に熱せられるばかりでなく鉱物の酸化を起こして、閉管中のものと反応を異にする。開管はなるべく鉱物に空気を触れしめる時に用いる。

◆炎色反応 試験すべき鉱物を白金線に巻き付けるか、或いは白金ピンセットで挟み、外炎に挿入してその炎の着色如何を観察し、その鉱物が何物なるかを考察するのである。一度塩酸・硫酸等の酸類に浸し、再び熱する時は、塩化物・硫化物の反応を現すことが著しい。

蛍石(赤)  岩塩、硼砂(黄)  輝安鉱(緑)  自然銅、赤銅鉱、孔雀石(緑)   閃亜鉛鉱、菱亜鉛鉱(緑)   炭酸鉛、方鉛鉱(青)  カリを含む鉱石(紫)

◆木炭上の試験  朴木炭を10センチ位の長さに切り、その一部に小孔を穿ち、之に鉱物の細片を入れて水で捏ね、酸化炎で熱すれば、或いは融け或いは臭気を放ち或いは色の変化を見る。または蒸皮(昇華)を生ずるから、その色によって鉱石を鑑定することが出来るのである。

硫黄、砒素、鶏冠石、辰砂、方鉛鉱、蒼鉛、水鉛鉱等は相当の蒸皮を作ることが出来る。
熔融の遅速 金属中で容易く熔けるものは、アンチモニー、錫、鉛、亜鉛等で、多少熔け悪いものは銅、金、銀等で、熔けぬものは鉄、ニッケル、白金等である。また、明礬、硼砂等の如く結晶水を含むものは沸騰するが、これも注意すべきである。

臭気の有無 二酸化硫黄に原因する臭気のあるものは多くは硫化鉱物である。砒素の化合物は特有の蒜臭を発する。

炎色の変化 前述の如き特有の炎色がある。

蒸皮の有無 蒸皮とは炭面に生ずる霜のような付着物で、その色は鉱物鑑定上の一要件である。自然砒及びその硫化物は酸化炎で加熱されると試品に遠く白色蒸皮を生じ、蒜臭は鼻を衝く。輝安鉱類は試品に接近して濃白の蒸皮が生じ、試品を遠ざかるにつれてやや青味を帯びた白色の蒸皮となる。

鉛類の鉱物は、酸化・還元両炎で直ちに還元されて酸化炎の蒸皮を生じ、熱い時は濃黄色であるが冷却すれば淡い黄色となる。蒼鉛及びその化合物は、熱い間は鉛は橙黄色を呈するが、冷却すれば淡橙黄色となり酸化蒸皮が出来る。また、カドミウムを含有する物の蒸皮は試品に接近して赤褐色、やや離れて橙黄色なる酸化カドミウムの蒸皮を生じ銀も酸化炎で至って静かに気化し、赤褐色の蒸皮を生ずるのである。

蒸皮の試験は割合に簡単であるが、木炭上の還元試験は難しい。先ず鉱石を細末にして之に炭酸ソーダを混じ少量の水を加え、還元炎で吹けば、銀鉱・鉛鉱の如きは還元されて光輝ある小球を生ずると共に、特有の蒸皮が出来る。亜鉛・砒素などは蒸皮のみが出来るが、ソーダと共に木炭上に熱し熔塊を銀板上に置いて水を注いだ時黒い斑点が出来れば、それは硫黄を含む鉱石と見ることが出来る。還元に適当な鉱物は方鉛鉱、輝銀鉱、黄銅鉱、閃亜鉛鉱、錫石等である。

◆硝酸コバルトの試験 硝酸コバルトの溶液で、木炭上の蒸皮または鉱物を湿らせて熱する時は特有の色を現して鑑定上の助けとなる。亜鉛は黄緑色、錫は青緑色。マグネシウムは薔薇色、アンチモニーは褐緑色である。

◆硼砂球の反応 白金線の一端を小さき輪の如くに曲げ、之を熱して硼砂粉末をつけ、更に之を熱すれば透明無色なるガラス様の小球が出来る。之に試験せんとする鉱物の粉末をつけ、再び吹管で熱すれば、鉱物は熔けて球は着色される。そしてその色は還元炎と酸化炎とによって異なり、或いはまた熱い時と冷却した時とによっても色を異にするのである。

付記:硼砂球 硼砂を350〜400℃に熱すると、比重2.37の無水物となる。これは741℃で溶解して無色透明のガラス状となり、金属酸化物を溶解して、その金属に特有の色を呈するので、金属の定性分析に用いられる。これを硼砂球反応という。硼砂球を白金線環上につくり、これにいろいろの金属酸化物または塩類をつけて共融する。(「化学小事典」より抜粋、SPS)

試験鉱物 還元炎 酸化炎
レンガ色 緑青
マンガン 無色 無色 赤紫
クロム 翠緑 翠緑 翠緑 黄緑

 


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