鉱物岩石鑑定要覧 

秋田鉱山専門学校教授 大橋 良一著 
大正15年6月5日印刷 6月8日発行 
太陽堂書店 より抜粋

 

 −序−

この冊子は初め秋田鉱山専門学校学生用として作ったのであるが、数年間使用して便利なことを確かめたのと、他の学校から頻りに希望されるので、今回方針を改め世に公にすることにしたのである。

既に世に行われている鉱物鑑定表はドイツのワイズバハの式である。この式では光沢に重きを置く結果として、鑑定の際光沢の判断を誤るときは、それがために非常なる見当違いへ走る例がしばしばあった。この書ではその欠点を改め、硬度に依って分類することにしたのである。

鑑定表には総ての鉱物種を網羅すべきでない。またあらゆる性質を悉すべきものでもない。この点においても従来の例に依らずして、最重要なもの102種に止め、性質もまた鑑定上必要なるもののみを掲げた。また硬度を記すに3.5の如くするを廃して、3+と記すことに改めてある。

岩石に就いては肉眼的鑑定を方針としたけれど、造岩鉱物の識別上、止むを得ざるものに対しては、特に顕微鏡的方法を加味したところもある。

岩石鑑定表及び造岩鉱物鑑定表に就いては、秋田鉱山専門学校助教授荒澤文治郎君に負うところが頗る多い。ここに謹んで感謝の意を表す。

大正15年の新春を迎えて  著者


吹管試験表

(1)炎色反応

Li
紫紅 Sr
橙赤 Ca
(輝きたる強き) Na
黄緑 Ba、Mo
翠緑 Cu(HClに濕さざるもの)
輝きある緑 B(HSOに濕したるもの)
淡き青緑 燐酸塩(HSOに濕したるもの)、Sb
青緑 Zn
藍青 Cu(HClに濕したるもの)
淡青 As、Pb

 

(2)開管試験

硫黄の燃ゆる臭気を発す...........硫化物(及び硫塩)

微少なる白色の光輝ある結晶を生ず....砒化物(及び硫砒塩)

管の下面に白色非晶質昇華を生ず.....Sb

金属光沢ある灰色の滴を生ず........Hg

試料に接して黄〜褐色の昇華を生ず....Bi

 

(3)閉管試験

色の変化 黒色に変ず Cuまたは有機物
暗赤色に変ず Fe
黄色に変ず Pb
同上(冷却すれば白色) Zn
昇華を生ず
黒くして金属光沢あるもの As
赤黄 AsS
赤褐 Sb
水滴
ガスを放つ 無色無臭 COまたはO
褐赤色悪臭あるもの NO

 

(4)炭壷試験

酸化炎

硫黄の燃ゆる臭気.....硫化物

昇華 白色(近きところ) Sb
白色(遠くはなれて) As
白色(熱き間は黄) ZnO
白色(近きところは黄) PbSO
黄色 PbO,Bi
硝酸コバルト液 濃青色 Al,Zn(珪酸塩)
緑色 Zn(珪酸塩以外の)
青緑 Sn
淡紅 Mg

還元炎

砒素の燃ゆる臭気.....砒化物

炭酸ソーダ 磁性ある微少体を生ず Fe,Ni,Co
金属球(灰色にして展性あり) Pb
同上(少しく展性あれども周縁部は脆し) Bi
同上(白色、展性あり) Ag,Sn
同上(黄色、展性あり) Au
同上(赤色、展性あり) Cu

 

(5)硼砂球試験

酸化炎 還元炎  
Mn
Co
Cu
Cu
Cr
褐(熱き間は茶) 濁れる灰 Ni
Fe,U
Mo
Ti

 

(6)燐塩球試験

酸化炎 還元炎  
Mn
Co
濁れる赤 Cu
Cr,U
淡黄 Fe
Ni
Mo
Ti

 


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