ひま話  (2005.12.23)


久々のひま話です。はや年の瀬にかかって2005年もあとわずかになりました。でも、年を越すという実感がまだありません。ばたばたに紛れてなんの準備もしていないからでしょう。とりあえずみそかには餅つきに呼んでもらっているので、久しぶりに大根おろしでうんまい餅っこがいただけそうだと楽しみにしています。
休みには標本の整理もしたいし、積ん読(つんどく)状態の本もカタしたいし、ホームページのコンテンツも少しはストックを作っておきたいし、音楽を聴いたり、フェルデンクライスのレッスンもしたいし、これらは世事の合間を縫うしかないので、それを思うともっともっと自分の時間が欲しいところです。

先週末までボストンにいました。滞在したスイートで半ば自炊生活。といっても、ほかほか弁当のレトルトカレーなど、ごっそり持っていきましたので、本式の自炊ではありません。純米酒を嘗めながら、あずき缶開けて、餅抜きぜんざい啜っておりました。
Thanks giving のお休みが明けると、アメリカはすぐにクリスマスシーズンの到来です。ホテルのロビーや食堂のテーブルカバーはゴブラン風の金色の縁取りがついた赤・緑地のそれらしいものに代わり、トナカイやサンタのぬいぐるみがソファやサイドテーブルやそこかしこに置かれ、壁にリースが飾られ、ファサードや植え込みに電飾が掛かります。ラジオや有線はやたら、♪ Let it snow, let it snow, let it snow と連呼。ほんとに降るので困ります。 
街ゆけば、キャンデーにキャンドルにツリー飾り、天使に生誕劇の置物やプレゼント入れの巨大靴下が店頭に文字通り山をなしています。めあての人々が繰り出して、プレゼント選びに余念がない様子です。
「あら、これいいわね。面白いんじゃない?」「誰にあげるんだよ」「誰でもいいわよ」などとご夫婦の会話が聞こえてきます。
企業を訪問すると受付には径1mくらいのリースがば〜んと飾ってあって、観葉植物も赤葉に変わっています。オフィスの入り口にでっかいダンボール箱がおいてあり、プレゼントの寄付を募っています。当然(?)、仕事の方もそわそわで、「クリスマスはのんびり休みたいから、さっさと用件片付けちまおうぜ。あんたらも日本帰って家族と過ごせよな」ってな感じであります。いつになくスムーズに事が運んで、ありがたい。
(昨年、レッドソックスが優勝した前後は、逆にてんで止まってしまいましたが)

まったくの受け売りですが、クリスマスの日(25日)は、朝、家族そろって教会にミサにいって、その後は家でクリスマスカードを開けたり、プレゼントを見たりしてのんびりくつろぎ、夜はやはり家族そろってターキー(七面鳥)を食べるというのが一般的な過ごし方だそうです。
ここで特筆すべき(?)は、クリスマスだからといって、ターキーやケーキの値段がハネ上がるということはなく、買い物をしたりレストランで食事をするにしても、むしろ安かったりお買い得だったりすることです。クリスマスに限らず、お祝い事がある時は、誰もが楽しめるようになっているのがアメリカで、どこぞの国みたいに、いかに儲けるかしか考えていないのとは違う…とまあ、そういうことだそうです。イブ(24日)を祝う習慣はありません。

一方日本ではむしろイブの夜がクリスマス本番みたいな感じがあり、この日にあわせてムードが盛り上がります。キリスト教徒でもないのにクリスマスを祝うなんて…という道理は、商業国家であり消費大国であるこの国ではあまり顧慮されることはなく、だいたいが日本のクリスマスは、キリスト教会とか幼稚園とかの行事を別にすれば、基本的に物品やサービスの宣伝・販売・消費を中心に動いているものなので、売り手はクリスマスに乗っかって儲けられたら万歳、消費者もこれを口実に普段なにかと怠りがちな知り合いや家族との親しい時間をもったり、お祭り気分を楽しめたらそれでいいのですから、宗教心を持ち出すことはないのです。賑やかな「気」はいいものだ。
滞在中、「日本でもクリスマスを祝うの?」、「祝いますよ。別にキリスト教徒ってわけじゃないんですけど」のやり取りに、あるアメリカ人が笑って言いました。
「クリスマスを祝うのは誰もがプレゼントを欲しいからだよ」
うん。至言ですな。


ちなみに、サンタさん(聖ニコラウス)はちょっと措いといて、12月25日がほんとにジーザス・クライスト氏の誕生日なのかというと、西方教会がそう決めたというだけのことで、かなりアヤシイものです。

西アジアやヨーロッパの歴史を紀元前後に遡ると、キリスト教以前にあった太陽(神)崇拝の祭りが、後に異端宗教廃滅に熱心な教会によって併呑され、キリストの誕生日という新たな口実で祝われることになった、というのがクリスマスの起源らしいです。
その辺りの事情をフレイザーの「金枝篇」に拠って示しましょう。

「ミトラ教がキリスト教に対する恐るべき敵手であって、荘厳な典礼を道徳的純潔に対する渇仰と不死の希望とに結合していたことは、いずれにせよ全く疑う余地のないところであった。
事実これら2つの宗教の間の衝突は、しばらくの間は均衡を保っていたことが明らかである。長い間の闘争の示唆的な遺物が、異教敵手から教会が直接に借用したと見られるわれわれのクリスマスの祭の中に保存されている。ユリアヌス暦では12月25日が冬至と定められ、1年のこの転機から日が次第に延びて太陽の力が強まってくるところから、その日は「太陽の誕生日」であるとみなされていた。

シリアとエジプトで祝われたと見られる誕生の典礼は驚くべきものであった。祝う人々はある奥の院にこもり、深夜そこから大声に叫んで言うのである。
−「おとめ、子を生めり。光は増すよ」と。
エジプト人は赤子の像によって新しく生まれた太陽を表わし、それをその誕生日すなわち冬至に運び出して礼拝者たちに見せさえしたのである。
このように懐妊して12月25日に息子を生んだ処女は、疑いもなくセム族が「天の処女」または単に「天の女神」と呼んだところの、かの東洋の大女神であった。
セム族の諸地方で、彼女はアスタルテーの一つの形であった。

さてミトラは、その礼拝者たちによっては、太陽すなわち彼らのいわゆる「征服されざる太陽」と同一視された。それで彼の誕生日もまた12月25日にあたっていた。
福音書はキリストの誕生日については何事も言っていないので、初代教会はそれを祝うことはなかった。しかしながら、やがてエジプトのキリスト教徒は1月6日を誕生日とみなすようになり、その日に救主の誕生を祝う慣習は漸次普及してついに第4世紀までにはあまねく東方世界に行なわれるようになったのである。

ところが第3世紀の終わり、あるいは第4世紀の初め、いまだかつて1月6日を誕生日として承認することにきまっていなかった西方教会は、誤りなき日として12月25日を採用し、やがてその決定が東方教会によっても受け入れられるに至ったのである。アンティオキアでは、この変化は紀元375年ころまで移入されなかった。

どのような思考が天文学者たちにクリスマスの祭を制定させることになったか。この祭制定の動機が、自身キリスト教徒であったシリアのある記者により、極めて率直に記されている。彼はこう言っている。
−「教父たちが1月6日の祝日を12月25日に変更した理由は次の通りである。12月25日の太陽の誕生を祝い、その際に祭礼のしるしとして燈火をともすのが異教徒の慣習であった。キリスト教徒もまたこの祭儀と祭礼にかかわりをもっていた。したがってキリスト教徒がこの祭を好んでいることを教会の博士たちが認めたとき、彼らは会議を開いて真の誕生をその日に祝い、神顕の祭を1月6日に祝うことに決めたのである。こうしてこの慣習とともに、6日まで火をたく慣習が普及した次第である」と。
クリスマスの異教起源は、アウグスティヌスがキリスト教徒同胞に、この厳粛な日を異教徒たちのように太陽のためでなく太陽を創造した者のために祝うべきことを説き勧めたとき、よし明白に承認されはしなかったとしても、明らかに示唆されている。

・・・こうして、キリスト教会は、異教徒の信仰を太陽から「義の太陽」と呼ばれる者に移すため、その教祖の誕生を12月25日に祝うように定めたものと考えられる。」

まあ、そんなわけなので、あまりカタイこといわずにクリスマスをば、祝いませう。


さて、暮れに大雪が降らない限り、今回が年内最後の更新になる見込みです。
今年は昨年にも増してばたばたで、更新のタイミングがかなりずれたり、更新してもコンテンツが少なめだったりで、訪問して下さる皆様には申し訳ないことでした。
鉱物記は結局手をつけられませんでしたが、表参道の鉱物ギャラリーは58トピックと、例年並の更新を果たせたので、私としてはほっとしています。
来年この状況が改善されるかどうか怪しいのですが、折角来て下さる皆様に楽しんでいただけるよう、また鉱物好きだ〜の気分に浸っていただけるよう、ゆるゆると進めて参りたいと思います。

少しだけ予告をすれば、年初には蛍石ギャラリーをお楽しみいただきます。ひま話では、ドイツのランメルスベルク鉱山のお話を、またギャラリーでは、引き続き石英類をいくつか紹介させていただきながら、金属鉱物や鉛の二次鉱物などに流れをひいてゆきたいと思っております。
まあ…お馴染みの皆様には、このサイトが予定通り進んだことがないことくらい、すべてお見通しでありましょうが。

なお、このところ掲示板に機械的な書き込みが続いたので、対処しようとしましたが、却ってシステムをおかしくしてしまいました(笑)。しょーがねーなー。時間を拾って復旧を試みますが、しばらくお待ちください。⇒対処は出来ませんでしたが、一応復旧。05.12.24.

みなさま、よいクリスマスを。そしてよき新年と実り多き鉱物ライフを!


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