玉の種類について  メモ書き


軟玉の話1で、古来玉と呼ばれるものには、さまざまな種類があったと書いた。あまりに錯綜していて手に負えないとも。

しかし、勇み足を覚悟で、多少のコメントをしておこうと思う。書いておかないと、私自身、あと半年もすればすっかり忘れてしまうに決まっているからである。

1.西洋流の分類では、玉は、硬玉と軟玉の2種類に分かれる。これは本来、鉱物種にいう、ジェダイト、及びネフライトのことを指す。はずだが、しばしば、硬度の比較によって、さまざまな玉をこの2種のいずれかに当てはめることもあるらしい。

両者を分ける境界線は硬度6〜6.5あたりに設定され、私たち(日本人)のいう、翡翠、碧玉、河南玉あたりが硬玉、それ以外の硬度の低いものが軟玉とされるらしい。中国人は、人によっては、ダイヤ、サファイヤ、エメラルドなどの硬い石も硬玉と呼ぶことがあるというが、ほんとうかどうか、私は知らない。(広義の「玉」は、宝石一般を指す)

2.中国人は、玉に対して1のような分け方をしない。もちろん商売においては、そういう国際的な認識を踏襲しているが、本質的に、玉は玉(ジェード)だと思っているらしい。つまり、これは翡翠だから値打ちがある、とか軟玉だから価値がない、というのでなく、玉が持っている「徳」(この言葉の解釈は難しいので、そのうちちゃんと書きますが)によって、良し悪しを判断する傾向がある。

3.もちろん玉質の違いは、ある程度、見た目で分かることであるから、中国人といえども、しっかり種類を区別をしている。
その分類法は、大きく分けて2つある。ひとつは、色による区別で、赤玉、白玉、青玉、黄玉、黒玉、翠玉、灰玉、萌黄玉、紫玉などと分けるやり方。また、色と石目の模様を組み合わせた呼び方や、石質を描写した名前もあり、この分類に準ずると考えられる。もう一つは、産地名で呼ぶ方法で、河南玉、老山玉、しゅう岩玉などがこれにあたる。


◆以下に、まず日本宝石振興協会「玉石入門」(1983)に拠る分類をあげてみる。この本は、販売促進用のパンフレットらしいが、記述があいまいで、よく理解できない。コメントは、私が適当に要約したり、判断(推測)したもの。

白玉:白い玉。古来天子の持つ玉とされた。最高級の玉。(古来というのは戦国末期頃だろう−SPS)

青玉:白と碧の中間色を示す冴えた色の青みがかった玉を指す。質が硬い。白玉との区別はなかなか微妙。

翠玉:いわゆる翡翠。

碧玉:日本では緑色のジャスパーを指すが、中国では必ずしもそうでないらしい。ジャスパーや翡翠そのほかの玉で深い緑色の玉をこう呼ぶ。

黄玉:特殊な珍しい玉だというが、よくわからない。黄色は皇帝の色でもあり、中国では、尊ばれてきた。

河南玉:河南で採れる。上品な緑色のものが多いが、ときに象牙のようなつやのある白玉も産出する。玉としてはランクの高いほう。

しゅう岩玉:遼寧省のしゅう岩山で取れる玉。さまざまな色があり、ホータン玉にも似る。

新山玉:これは玉名というより、近年になって新たに産地が開発された玉をいうらしく、他国産のものに使われる名称。黒龍省あたりで出た玉を指す場合もある。

浙川玉:浙川で採れるごく濃い緑色の玉。ほとんど黒くみえるような粘りのある玉らしい。

鄱陽玉:沈んだ白色の玉。硬さは中くらい。地味だが、その清楚が好まれる。

芙蓉玉:ローズクオーツ(紅石英)のことのようだ。

紫晶玉:紫水晶らしい。

緑晶玉:これも石英系の緑色の玉。

東陵玉:緑色のなかに金色がかった、チカチカ光る別の鉱物が混じるのが特徴。白い玉もあるという。

藍紋玉:ラピスラズリのように見えるが…

木変玉:私たちのいうタイガー・アイ。虎目石。

桂青石:青を基調として、黒っぽかったり、白っぽかったり、緑がかったりする。清朝後期に玉材が払底しかかったとき、開発された石という。

凍石:水気が凍みたような趣き深い緑色の石という。意味不明。一般には、滑石のうち質の緻密なものを呼ぶ言葉。

墨晶石:墨のように黒い石。石であるのに、なぜ玉の扱いをされるのか?

丹鳳玉:凍玉に似るが、柔らかい。文房四宝に加工されたものが多いという。濃い緑色のものが多い。

瑪瑙玉:もちろん、メノウ(アゲート)のこと。石英の一種。

孔雀玉:これまた孔雀石。


◆次に、国立故宮博物院「玉器の話」(1998)に拠って、石種別の分類をあげよう。

角閃石類

閃玉1 (マグネシウム質大理石から産出するもの) :産地には、新疆省 崑崙山、遼寧省 寛ぽ、四川省 汶川、江蘇省 りん陽がある。

閃玉2 (超塩基性火成岩に変質した蛇紋岩から産出するもの) :産地には、新疆省 天山、マナス、河南省 浙川、台湾省 花蓮がある。

蛇紋岩類

しゅう岩玉: 産地 遼寧省 しゅう岩

酒泉玉: 産地 甘粛省 酒泉

信宜玉: 産地 広東省 信宜

長石類

南陽玉 (斜長石、ゆうれん石、白雲母、透輝石などの共生鉱物) :産地 河南省 南陽

炭酸塩類

藍田玉 (大理石と蛇紋大理石の共生鉱物) :産地 陝西省 藍田

石英類

密県玉: 産地 河南省 密県

(中国以外の産地は省略)


◆現状での真打ちとして、近山 晶「宝石宝飾大事典」(1995)によって、コメントを付す。

脂光石(イーレオライト):ネフライトの一種。脂肪光沢が著しい。シベリア産。
     (⇒ネフライトでなく、ネフェリン(霞石)の一種"Eleolite" と思われる -SPS)

和田玉(ホータン玉):ホータンに産するネフライト。古玉。

黄玉:中国では、トパーズ以外に、黄色のネフライトを指す場合もある。

カン・チン・ジェード:淡青色翡翠に対する中国の商業名。

京白玉:北京市西山地区で産する白色の石英。

崑崙玉:新疆ウイグル自治区の崑崙山脈の山麓に産する、しゅう玉と同種の石。

マウ・シッ・シッ:ジェダイト(翡翠)を含んだアルバイト岩石で、緑色、濃緑色から黒色の斑点ないし脈状斑を伴う。みゃんまーのマウ・シッ・シッ地区に産する。

シェー・ユー(黒玉):黒色ジェードの中国名。

しゅう岩玉(しゅう玉):サーペンティン(蛇紋石)種で、現在もっとも多く用いられて彫刻用の玉材料であるが、軟玉ではない。遼寧省しゅう岩県に産する。ドロマイトと蛇紋岩との接触部に生じている。

新山玉しゅう玉の別名

タリフ・ジェード:雲南省タリフ地方で取引される翡翠をいう。ミャンマーから陸路で通商された翡翠。

チョン・ユー(赤玉):良質の赤色のジェダイトの中国名。

凍石:タルク(滑石)の一種で、塊状で産するものをいう。成分はタルクもしくはソープストーンとほぼ同じであるが、わずかに不純物が多いため、硬度がソープストーンより少々高くなる。灰緑色、灰褐色。

東陵石:冬陵石とも記す。グリーン・アベンチュリン・クオーツの中国名で、インド産、ブラジル産の輸入原石を指す。中国産のグリーン・クオーツは密玉である。

独山玉;河南省南陽県の独山で産する。ホーナン・ジェード(河南玉)南陽玉とも呼ばれる。現在産出の中国玉のうちでは最もミャンマー産ジェダイトに類似する。斜長石60〜65%、ゾイサイト20〜25%、雲母10〜15%、スフェーン5%よりなる。

南玉:広東省信宜県に産する。信宜玉。サーペンティン種で豆緑色、濃淡緑色。強靭性があるのが特徴で、薄肉品の彫刻が可能なため、酒杯や茶碗などがよく作られている。

濃緑玉:クロロメラナイトの和名。多量の鉄分を含んで暗緑色から黒色に近いジェダイト。

パイ・ユー(白玉):白色のジェダイトやネフライトに対する中国名。

ハン・ユー(漢玉):漢時代に用いられた翡翠に対する中国名で、いわゆる古玉である。

ビー・ユー(碧玉):野菜色(ホウレンソウ)のグリーンのジェダイトあるいはネフライトの中国名。(bi-yu. 新疆のウルムチに近いマナシ Manasi に産するこの種の玉は、中国の市場開放政策以後に盛んに市場に出回って、マナシ・ジェードと呼ばれる。ただ最近(2020)はカナダ産のBCジェードやロシア・サヤン産のジェードを輸入して、マナシ・ジェードとして売っているようだ。

芙蓉石:ローズ・クオーツの中国名で、内蒙古と河北省に産出があるが、品質、量ともそれほどのものではない。玉彫刻で使われている原石はほとんど輸入玉である。

粉翠:桃花石。京翠玉。北京市昌平県西湖地区に産するロードナイト。

マンチュリアン・ジェード:ソープストーンのこともいうが、旧満州すなわち中国東北地区で産するジェードを指し、現在はサーペンチンである。しゅう玉がそれにあたる。

マン・ユー:血赤色のジェードの中国名。

密玉:河南省の密県に産する。クオーツアイト系の石であり、珪酸75%にファックサイトとウォラストナイトが混入している。産出は1958年以降である。

蜜蝋黄玉:ワックス・イエロー・ジェードとも言われ、ハニー・イエロー色の白雲石大理岩であり、新疆ウイグル自治区のハミに産し、新しい玉彫刻材に加えられた。

木変石:タイガー・アイの中国名であるが、この名称は南アフリカ産に適用され、中国河南省産のものは、虎晴石という。

ヤルカンド・ジェード:中国新疆ウイグル自治区の交通の要衝ヤルカンドで取引、加工されるネフライトをいう。産地はホータン。和田玉。

ユンナン・ジェード:ミャンマー産ジェダイトが雲南省経由で陸路運ばれ、雲南省産と誤解されたもの。

ルー:中国で、翡翠の美玉をいう。

ルー・ジェード:青緑色翡翠の中国の商業名。


◆致知出版社「翡翠」(1988)によって、中国の玉の種類を引用しよう。

1 硬玉 普通にヒスイと呼ばれる。産地はミャンマー北部で、中国産はない。

2 ネフライト(軟玉)

2−1 和田玉(ホータン玉、ユータン玉、ミンファン玉と呼ばれるジェード) 透閃石ーアクチン閃石岩である。新疆ウイグル自治区産。

2−1−1 白玉 白色ネフライト
2−1−2 碧玉 暗緑色ネフライト
2−1−3 軽玉 淡灰、帯緑ネフライト
2−1−4 羊脂玉 羊脂の色と光沢をもつ最も珍重されるネフライト

3 その他

3−1 新玉 蛇紋岩の一種。緻密で強靭なものであり、黄緑あるいは暗緑色、やや透明なものから不透明のものまである。遼寧省産。

3−2 東北玉 蛇紋岩の一種。蛇紋石と滑石からなる。北東中国産。

3−3 南陽玉 変はんれい岩。斜長石、透輝石、ゆう簾石、絹雲母からなる。河南省南陽県産。南陽(ナンヤン)ヒスイと呼ばれる。

3−4 貴州玉 珪岩の一種。二次的な珪岩で石英とハロイサイトからなる。貴州省産。
    蜜 玉  河南省産に類似。

3−5 東玉 緑泥石。塊状、緻密なもの、暗緑色、半透明ないし不透明。山東省産。


ここに出ていない玉もいくつかある。
また、翡翠にも外観・品質によって、いくつかの商業的な呼称があるが、煩雑になりすぎるので別の機会に紹介したい。

というわけで、どうして私が手に負えないと思っているか、お分かりいただけたろうか?

いつか、きちんとまとめることが出来たらいいのだが…。

cf. ビルマ玉(ヒスイ)の分類名 (2020.8.2)

2001.3.3 SPS


追記:

●しゅう岩玉は、蛇紋岩類の玉であるが、鮮翠色、暗緑色、深緑色、白色、透明乳色などの小規模な斑状模様が入り乱れ、その色合いは、ミャンマー産のヒスイに実によく似ている。うっかりすると、質がやや劣るヒスイかと思ってしまう。私見では、透明乳色部が、大理石様の粒状組織を示しているところと、さまざまな明度、彩度の緑色が小範囲に含まれ過ぎているところが、ヒスイとの違いかと思う。

しかし、中国政府は数年前に、しゅう岩玉を、正式の玉として承認したということなので、今後、この種の玉がおおっぴらにジェードとして扱われることになるだろう。

2001.5.30 


中国における玉の用語集:

◆中国では、玉に関する用語が沢山ある。久米武夫「宝石・貴金属辞典」(風間書房1957年)によっていくつか拾ってみる。(青色小字はSPSの注)

玉英:たま    玉瑛:水晶   玉珥:たまの耳輪   玉璿(ギョクセン):たま   玉瑱:玉で作った耳だま   玉璞:あらたま

   

Chan      (玉偏に桟の右作り) ひすいの酒杯 
Chan 瑳(玉偏に差) 白ひすい
Chang 璋(玉偏に章)    公式用に用いたひすいの装飾品
先端が広がった刃を持つ武器起源の祭器
Chao 宝石一対
Ch’i h(玉偏に其)  ひすいの各種
Chieh 玠(玉偏に介) ひすいの小板
Chios      美玉
Chiu 玖(玉偏に久)  ひすいに似た黒玉
Chiung (玉偏に滴の右作り) 朱色ひすい
Ch’iung  赤ひすい、緑めのう
Chu 宝玉、真珠
音が壽に繋がる吉祥アイテム
Chu(uにウムラウト) 琚(玉偏に居)   宝石入りの下げ物
Chueh(uにウムラウト) 玦(玉偏に決の右作り) 輪形の指環、下げ物
Fei Ts’ui 翡翠   良ヒスイの各種
Fu      玞(玉偏に夫) ヒスイ以下の半貴石
Han yu(uにウムラウト)  漢玉  漢時代のヒスイ
古墳から出土する風化した玉だろう
Hsieh     (玉偏に皆) 黒ヒスイ
Hsiu     e(玉偏に秀) ヒスイのぼく玉
Hsuan   高価なヒスイ
Hsun(uにウムラウト) (玉偏に旬) 耳飾り
Hu (玉偏に虎) 虎の形のヒスイ
Jen   純質のヒスイ
Ji  濃緑色のヒスイ
Ji (玉偏に華) 紺色ヒスイ
Ju (玉偏に后) カワセミ青色ヒスイ
Kan (玉偏に甘) 黄色ヒスイ

Kan 

(玉偏に干) 良石
K’o 珂(玉偏に可) 不良のヒスイ
K’un (玉偏に昆) 良ヒスイ
Lang (玉偏に良) ヒスイの一種
Lin (玉偏に林) 高価のヒスイ
Lu (玉偏に路)  美石 
Men (玉偏に「満」の右側の文字) 血赤色ヒスイ。赤色の宝石
Min (玉偏に民) ヒスイに似た石
Ming 玟(玉偏に文) ヒスイの良品
pi yu 碧玉 ヒスイ
Po 玻(玉偏に皮) 宝玉
P’o 珀(玉偏に白) コハク
P’o 璞(玉偏に僕の右作り) 岩石についたヒスイ、あらたま
Shang hung 上花 ヒスイの彫刻方法
Ta Kung 打孔 ヒスイの研磨方法
Ta−mo 手磨 同上
Ta−qua 大圭 ヒスイの大塊(圭は先端の尖った刀状器で
古くは酒柄杓の柄に使った)
T’ien ヒスイの一種
T’ing 珽(玉偏に廷) 宝石の笏
T’so 瑳(玉偏に差) 色白色の宝石
T’sung j(玉偏に宗) 中央に穴のある八角ヒスイ
良渚文化以来の方形器で中央は円形に穴が貫通し、
神霊の依り代となるべきもの
TZu 玭(玉偏に此) 宝石の光沢
Wei 瑋(玉偏に韋) ヒスイの一種
Yao 珧(玉偏に兆) 宝石の一種
Yao 瑶(玉偏に揺の右作り) 貴ヒスイ
Yuan 色ヒスイの大輪(玉偏なら、璧の一種)
Yu−chang 玉杖 ヒスイの王節
Yu−tsan 玉瓚(玉偏に賛、但し夫の文字は「先」) ヒスイの鉢
Yu(uにウムラウト) 瑜(玉偏に楡の右作り) 美ヒスイ
Yu(uにウムラウト) ヒスイ、宝石、宝玉、装身具

2002.5.18 SPS


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