ひま話 テレスコマイクロに関するメモ(拡大撮影) (2012.7.28)


もう何世代も前のデジカメになってしまったが、ニコン Coolpix シリーズ(885, 950, 990, 995, 4500, 5000, etc)には、望遠/マクロ撮影用オプションとして、栃木ニコンから「テレスコマイクロ」という面白いアイテムが提供されていた。 初代の 8x20D と二代目の ED6x18D とがあり、前者の方が倍率は高いが、収差補正はEDレンズを使った後者の方が良好らしい。僕が持っているのは後者である。

メーカーの説明によれば、テレスコマイクロはデジタルカメラのコンパータレンズとして使用することを前提に設計されたアタッチメントであり、 2002年9月発売の ED6x18Dは、我がニコちゃん E4500にアダプタなしで取り付けられ、「35mm 換算で焦点距離 900mm相当の超望遠撮影、あるいは接写(マクロ)用として最大約2.6倍の撮影が可能」であるという。E4500のズーム望遠側は換算155mmなので約6倍、マクロ撮影では単体の撮影倍率が実用的に max 0.4-0.6倍程度なので約6-8倍のスペックアップとなる。
また単独で使用することも出来て、「望遠鏡として6倍、拡大鏡として20倍、クローズアップレンズを取り付けると総合45倍」の拡大率を持つ複合単眼鏡となる。
スペックに魅せられがちな理系男子としては、なんというかクラクラするようなオモチャなのだった。
(参考 ⇒ 報道資料 ニコンニュース

画像にある上の細長い筒がテレスコマイクロ ED6x18D 本体。伸ばした状態。
下の短筒はクローズアップレンズユニット。これを E4500に繋げると、レンズ前が可笑しいほど長い、まるでビームライフルのような、見るからにマニアックな撮影機材となる。フリーだとお辞儀するので、スイベルリミットをOnにして使用する。

ニコちゃん Coolpix 4500 (E4500) 

単体でもマクロ能力は相当なものだが、レンズ前玉と被写体との距離は数cm程度(最短2cm)とかなり短くなる。レンズ径が小さいのでたいして不便はないが、テレスコマイクロをつけると最短約10cmのワークディスタンスが確保され、気持ち的・照明的に余裕が生まれる。(そして、もっと寄りたいという気持ちも…)
ところがクローズアップレンズをつけると、再びワークディスタンスは1.5〜2cmに…(笑)

E4500 + テレスコマイクロ + クローズアップレンズ

あまり厳密でないが、1x1mm 方眼紙をかざして撮影すると、概ね以下のような視野が得られる。

E4500 ズーム中間位置(35mm) マクロモードの接写:
視野の方眼紙幅約11.8mm ⇒ 撮影倍率約 0.6 倍 (WD2cm) 
実践的にはこのくらいがマックスかと。(紙のたわみは手持ちのため)

E4500 ズーム望遠端+テレスコマイクロ x20倍時:
視野の幅約2.83mm ⇒ 撮影倍率約 2.5 倍  (WD10cm)
公称スペック(2.6倍)より少し低いが、まずこんなものか。これだけワークディスタンスがとれるのはたいしたもので、僕が使ってる メイジテクノの長焦点型実体顕微鏡に匹敵する(倍率も同程度)。やや糸巻き形の歪曲収差あり。

E4500 ズーム望遠端+テレスコマイクロx20倍+クローズアップレンズ:
視野の幅約 1.32mm ⇒ 撮影倍率約 5.3 倍  (WD1.4cm) やや糸巻き形の歪曲収差あり。
公称は max 5.8倍。カメラ単体だとあまり気にならないWD だが、「アタッチメントに長銃身」(←ワイルド7に出てくる科白)の状態では前玉をぶつけそうでヒヤヒヤする。もちろんこの種の撮影ではカメラを固定する架台または三脚が必須。
それにしても視野径わずか 1.7mmの範囲を画面いっぱい大写しにするわけだ。

ここで(疑似)分解能を計算してみると、E4500の撮像センサーのサイズは約6.99×5.2mm、画像データは 2272x1704 ピクセルだから、1x1ピクセルのデータが代表する被写体サイズは、等倍撮影時に素子ピッチ相当の3ミクロンとみなせる(これは 167LP/mm の解像度に相当する)。
倍率5倍なら、1ピクセル=0.6ミクロンとなり、サブミクロンオーダーの解像が期待できる計算である。ほんとかよ〜、と思う(ローパスフィルターがかかっているので、実際には、あってもこの7割くらいの能力だろう)。 cf. 補記1 参照

では、鉱物標本を撮影した例。
まずカメラ単体で。 WD3cm で幅17mmの視野が写るようにズームを調整し(撮影倍率約 0.4倍)、マダガスカル産ハンベルグ石(ギャラリーNo.191)を撮影したのが次の画像。結晶の幅は 8mm くらい。

WD約3cmでマクロ撮影(ズーム中間) 
ノートリムで幅600に縮小(26.4%) シャープネス処理1回

次いでテレスコマイクロ20倍をつけて撮る、

E4500 +テレスコマイクロ20倍 ズーム望遠端 ワークディスタンス約10cm(最短)
ノートリムで幅600に縮小 シャープネス処理

さらにクローズアップレンズをつけて、

E4500 +{テレスコマイクロx20+クローズアップレンズ} ズーム望遠端 
ワークディスタンス約2cm  ノートリムで幅600に縮小 シャープネス処理

以上は撮った画像をそのまま約4分の1に縮小した例だが、解像感を見るために、今度は画像を50%縮小してから幅600ピクセル分を切り出してみる。
標本は例によってスペイン産の「虹の石」。

ニコちゃん マクロモード f7.1 50%圧縮後 600ピクセル分を切り出し 
シャープネス処理1回 WD 2cm (最短距離接写)

ニコちゃん +テレスコマイクロx20倍 f7.1 50%圧縮後 600ピクセル分を切り出し シャープネス処理1回 WD 9.5cm ズーム中間

ニコちゃん +テレスコマイクロx20倍 f7.1 50%圧縮後 600ピクセル分を切り出し 
シャープネス処理1回 WD 9.5cm ズーム望遠端(デジタルズームなし)

ニコちゃん +テレスコマイクロx20倍 +クローズアップレンズ f7.1 
50%圧縮後 600ピクセル分を切り出し シャープネス処理1回 WD 1.4cm 
ズーム中間

ニコちゃん +テレスコマイクロx20倍 +クローズアップレンズ f7.1 
50%圧縮後 600ピクセル分を切り出し シャープネス処理1回 WD 1.4cm 
ズーム望遠端(デジタルズームなし)

拡大率が上がるほど被写界深度(ピントのあってみえる距離範囲)が極端に浅くなることと、小絞りボケの影響もあって、画質はやはり落ちていく。でもズーム中間で撮るとそう悪くない。むしろデジイチには望めない被写界深度の深さといえる。

ちなみに最近のAPS-Cデジタル一眼機(1600万画素、素子ピッチ約 5ミクロン、としよう)に等倍マクロレンズをつけて撮影した場合を想定すると、1x1ピクセルのデータが代表する被写体サイズは等倍時 5ミクロン相当であるが、これはE4500単体を使って倍率0.6倍で撮った時のサイズに等しい。つまり E4500単体のマクロ撮影精度は、今でも最新のデジイチ+マクロレンズとほぼ同等なわけである。
もちろん撮影視野を比べれば、センサーサイズの差を反映して、E4500で撮った画像は幅約3分の1、面積にして10分の1くらいしかなく、一度に俯瞰できる範囲は随分小さい。従って、比較的広い範囲を写しながら、ある程度細部も詳細に写すには、センサーサイズの大きなデジイチの方が優れているとは言えるかもしれない。とはいえこのデータを余さず表示するには畳サイズの巨大なモニターが必要である。

テレスコマイクロをつけると、単体撮影に数倍するマクロ撮影が可能となり、10年前には大きなアドバンテージであった。しかし今日では、その頃まだ夢、もしくは高嶺の花だったデジタル一眼の、一般向けモデルが普及しており、マクロ撮影ではデジイチ+マクロレンズ+テレコン、さらに+クローズアップレンズを利用する選択肢が拓けている。テレスコマイクロと同様の働きをするアタッチメントが汎用品として存在し、2,3倍あるいは5倍くらいまでの撮影は普通に可能なわけだ。広角レンズを逆付けして2〜3倍の拡大率を得るといった手段もある(ニコンは純正の逆付けアダプタを提供している)。
残念ながらテレスコマイクロのコンバータとしての役割は終わってしまったようだ。この先はギミックな単眼鏡として使っていくことになるか…。
もちろん、コンパクトなマクロシステムとしては、まだ現役であるよ。

補記1:仮に波長0.55μmの単色光(緑色)で照明した場合、分解能は 0.34/NA(μm)で表される。
     開口数NA と実効 F値(Fe) の間に、Fe=1/(2NA)の関係があり、
     F値とFeとは拡大率Mを介して、Fe=(1+M)Fの関係がある。
     3μmの分解能を得るには NA=0.11 程度の開口数が必要で、実効F値で 4.5、等倍の像が得られたとして、
     F=2.25。これは少し苦しいだろう(もともとE4500のレンズにそこまでの明るさはない)。
     0.6μmの分解能ならNA=0.55, Fe=0.9 …まあちょっとありえない数字だと思う。つまりは無効拡大?


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