191.ハンベルジャイト Hambergite   (ネパール産ほか)

 

 

ハンベルグ石 -ネパール、ダーラパニ、ナジャ鉱山産

 

白色柱状の結晶。見た目にこれといった特徴がないので、ラベルがなければもっとポピュラーな別の鉱物かと見過ごしてしまう。ベリリウムの硼酸塩で、硬度7.5。へき開完全。宝石書には、「非常に希産で、透明石はごく得難い。石英に似るが、強い複屈折により、鑑別は容易」とある。しかし、それは透明なカット石の話。不透明塊状だとさらさら判らないだろう。

ある標本商さんがプライベートでネパールに旅行したとき、カトマンドゥの宝石店に鉱物標本が並べられているのを見た。聞けばヨーロッパからの観光客が買っていくのだという。いかに鉱物趣味が浸透しているかが分かる。上の標本は、その中に混じっていた品。宝石店では、もともと何の鉱物か分からずにおいてあったが、先客のドイツ人が本国に持ち帰って調べたところ、ハンベルグ石だったという曰くつき。
そんな珍しい掘り出し物を、休暇中の氏は目ざとく拾い上げてきたのである。標本商おそるべし。

hambergite

ハンベルジャイト/ハンベリ石/ハンベルグ石 
−マダガスカル、アンタナナリボ県アンジャナボノイナ・ペグマタイト産


ハンベルジャイト/ハンベリ石/ハンベルグ石 −ルース 
透明でもやっぱ判んね〜

追記:ハンベリ石/ハンベルグ石は 1890年にブレガーが記載した鉱物で、発見者であるスウェーデンの鉱物学者 アクセル・ハンベリ A.Hamberg に献名された。原産地は希元素鉱物の宝庫ランゲスンツ・フィヨルドの東岸ヘルゲロア。
このあたりの本土は後にラルビカイトの採石場が展開されるが、伴ってハンベリ石の産地が約30件報告されている。晶洞を埋めて産する緻密な白亜質の物質はスプルースタインと呼ばれて、たいていソーダ沸石が主体だが、時にハンベリ石を含んでいる。稀に微小な自形結晶をなす。

ネパールのナジャ鉱山については今のところ情報を持たないが、東部のサンクア・サーバ地方にかつてヒャクル Hyakule 鉱山というペグマタイトを掘る宝石鉱山があって、1960年代中頃まで専らエルバイト(リチア電気石)を採っていた。ここに 5cm に達するハンベリ石が出た記録がある。宝石質のものもあった。その後ほぼ放棄された状態にあるらしいが、90年代初から2000年代にネパール産として西側市場に出回った標本は、ヒャクル鉱山産ではないかと噂されている。あるいはナジャ鉱山産であるかもしれない。

下の画像はマダガスカルのアンジャナボノイナ・ペグマタイト産の美晶。島の中央部の、人跡まばらな僻地の丘に露出したこのペグマタイトは、マダガスカル随一の鉱産地と評された時期があった。1970年代、イダー・オバーシュタインの業者が鉱山を保有して、盛んにトルマリン(リチア電気石−リディコート電気石)を掘ったのだ。スライスすると、いわゆる「メルセデス・ベンツ」マークと呼ばれる三ツ矢模様が現われて、宝飾品として人気があった。その後稼働頻度は落ちたが、トルマリンの他、フェナス石やダンブリ石、フェルスマン石などの良標本を出している。
ハンベリ石についてはイタリアの鉱物学者ペツォッタが、「融蝕の激しい結晶を夥しく産した」と述べている。中に無色透明の美晶があったらしく、数センチサイズの結晶標本が出回ることがある。ただしごく稀である。
ハンベルグ石は組成 Be2(BO3)(OH)。複屈折性が強く、透明石をカットするとテーブル面を通して裏面のファセットが二重に見える。(2020.12.29)

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