オーストラリアのオパール −ひま話(2001.3.2)より


この間、久しぶりに飛行機に乗った。一時間ほどのフライトの間、格好の時間つぶしとなる落語の放送がなかったので、代わりに機内誌「WINDS」(JAL 2001年2月号)をパラパラめくって読んでいた。そのなかに、「宝石探しで発見するもの 一日5ドルで、一攫千金!」という記事があった。

引用すると、

ブリスベンの南、400キロ。内陸部をシドニーへと走るルート15沿いに、グレンイネスという小さな街がある。その周辺には、宝石掘りの名所がそれこそ宝石のようにちりばめられているのだ。サファイヤ、トパーズ、エメラルド、水晶、ジルコン、ガーネットなど。場所によって種類は違うが、さまざまな宝石・鉱石がたった5ドルで採り放題なのである。

宝石掘りといっても、難しいことは何ひとつない。河原の砂利をざるにすくうだけ。ササッと振ればそこここに、まさに希望の星のよう燦然と輝く原石が手に入る、という算段である。
だが、見ると聞くでは大違い。すくえどすくえど小粒しか見つからない。探せど探せど見当たらない。それでも楽しい。ただ掘って、探して、捨てるという単純作業が、ことのほか楽しい。…。(柳沢有紀夫)

というお話だ。オーストラリア旅行を予定されている方は、一応頭の隅に入れておかれるとよいかも。詳しい情報は、下記へ問い合わせてみるといい。

Glen Innes Visitor Information Centre
宝石掘りの場所やツアーなどの情報を得ることができる。
Tel:61−2−6732−2397
Fax:61−2−6732−6090

Mirerama (Gem&Mineral Show)
毎年3月の第2金曜日から3日間開催される宝石・鉱石フェスティバル。
今年は、3月9日(金)〜11日(日)
Tel:61−2−6732−4176


ところで、柳沢氏の文章で一箇所、青字にしておいた部分がある。「宝石・鉱石」というところだ。最近私は、なぜ「鉱物」でなくて、「鉱石」なんだろうと考えている。
ときどき、趣味を訊かれて、「こうぶつを集めています」と答えると、けげんな顔をされることがある。説明を加えると、「ああ、こうせきですね。」と頷かれたりする。そんなとき、自分が当然のように使っている「鉱物」という単語は、趣味のない方にとっては、まったく耳慣れない言葉なのだなあと思うのだ。私の感覚では、鉱石というと、工業的に有用な金属の原鉱のイメージであって、結晶質の美しい石は、やはり鉱物でなければならんのだが、世間ではすべてひっくるめて鉱石と呼んだ方が通じやすいようだ。
少し前からイラスト系の鉱石サイトの方々とも相互リンクを始めたけれど、この世界でもやはり鉱石、あるいは単に石と呼ぶ様子だ。「物」ではだめで、「石」でないといけないのか? いや、おそらく「石」という言葉の方が、はるかに直観的にその存在形態を指し示しているということなのだろう。

この間テレビで宮崎駿氏の映画「天空の城ラピュタ」をやっていた。空に浮かんだ宝の島ラピュタを復活させる力を秘めた石を巡る物語で、ある日、空から飛行石のペンダントを持った女の子が、鉱山町に降ってきたところから素敵な冒険が始まる。飛行石の力に包まれた主人公たちが、ゆっくりと巨大な立坑を落下して、地底の古い坑道に入っていくシーンが、私は好きだ。変わり者のおじいさんが、「石たちの声は小さいのでな」と呟きながらランタンの火を消すと、トンネルの至るところで、岩に含まれた飛行石のかけらが、暗闇にぼうと光り出す。いいなあと思う。この場合も、やはり、石たちと呼ぶからしっくりくるのである。
考えてみれば、鉱物の和名には、たいてい−石、あるいは−鉱という接尾辞がつく。鉱物はすべて、石または鉱に属するのであるから、集合的に鉱石と呼ぶ方が、言語感覚的に正しいのかもしれない。

このサイトのタイトルも、「鉱石たちの庭」とすべきだったろうか。しかし、私の感覚は、依然、「鉱物」を良しとしている。その方が、なにかしらキラキラしいもの、珍奇で鋭角的なものを彷彿させる気がするから。この上は、鉱物という言葉の普及に一役買いたいものである。(大げさ?)


グレンイネスの宝石掘りの話をしたところで、ついでにクーパーペディのオパール掘りについても、ちょっと書いておこう。オーストラリアは、サファイアやダイヤモンドの世界有数の産地でもあるが、何と言っても伝統的な(100年以上続いている)オパールの産出国である。なにしろ世界の商業用オパールの7割以上が、この国から掘り出されているのだ。ここに紹介するクーパーペディは、かつてその大半を供給していた町だ(現在は産出が減って、首位の座を奪われているらしい)。

クーパーペディはオーストラリア中南部の砂漠地帯にあり、今世紀の初めにオパールが見つかって以来、大勢の白人がやってきて穴を掘り続けている。ここのオパールは、乳白色の地にやや淡めの遊色が煌めくものが多い。品質的にはたいてい中級以下といわれているが、宝飾品やアクセサリーとして、最も潤沢に使われているのも事実である。今でも2〜300人くらいの鉱夫たちが、オパールを掘って暮らしているし、訪れた観光客たちは、にわか鉱山師となって、宝石探しを楽しんでいる。実をいうと、鉱夫たちの多くは、オパール掘りだけでは生活を維持するのが難しく、もっと堅実な家族のサラリーや、観光客相手の副業が大切な収入源になっているということだ。プロの鉱夫にとってさえ、オパール探しは一攫千金のギャンブルで、本当に上質の石は、そう簡単に見つかるものではないのである。しかし、そのおかげでクーパーペディは、効率的だが味気ない企業的な鉱山資本(設備)の流入を免れ、昔ながらのロマンチックな、時に無法者の跋扈する、お宝探し(トレジャー・ハンター)のメッカになっているともいえるだろう。

地上に運び出されたオパール混じりの土砂。この町は、アデレードから、有名な色の変わる岩山エアーズ・ロックへ向かう途中にあるので、観光客には立ち寄りやすいところだ。日中は気温が40℃以上になり、夜間には10℃まで下がる。人々は地下に穴を掘って暮らしている。かつては「地下にある町」とも呼ばれていた。現在はエアコンが普及しているので、地上に住む人が増えたが、ホテルや教会なんかに地下の穴を利用しているものがあり、観光の目玉になっている。穴ぐらホテルは評価が分かれるが、鉱物好きなら迷わずゲットだ。ヌードリングに時間を忘れる観光客たちオパールは、ふつう深い井戸のような立坑を掘って採掘する。しかし、観光客がそうした鉱区で勝手に宝探しをするのは危険である。古い廃坑が無数にあって、落っこちるとまず助からないし、誰も気づいてくれない。それに、プロの鉱夫たちがお金を払って採鉱権を得ている土地で、勝手に掘るのはマナーに反する。見つかると大変だ。お金を払えば、掘り出した土砂の中から砂利とオパールを分ける作業(ヌードリングという)を体験することができるので、こちらに参加しよう。
オパール探し体験ツアーは、いくつもの観光業者が主催している。たいてい13時頃に出発して、オパール鉱山の見学、ヌードリング、クーパーペディの近くにあるクロコダイル・ハリー(有名なワニ猟師だった)の記念館などをまわって、17時頃に戻ってくる。半日遊んで料金は$25〜$30くらい。帽子とペットボトルは必携だ。
クーパーペディの宝石掘りも、なかなか楽しいのではないかと思う。

おまけ:オパールについて、もっと読みたい方は、おぱーるをクリックして下さい。


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