153.水 晶 Quartz (中国産) |
西安から河西回廊を西へ1500キロ。砂漠の上を飛行機で飛ぶこと2時間半、やっと敦煌の町に着く。ここから80キロばかり西へ走ったところが、生きて帰れぬタクラマカン砂漠の東の端、陽関である。漢の武帝以来の西域の守り。詩人王維が、西へ旅立つ友人をイ河のほとりまで見送り、もう一杯、もう一杯と酒を勧めながら、「西の陽関を出てしまうと、もう親しい人に会うこともないだろう」と、歌に詠んだ辺境の地だ。
関所といっても、今では古い城壁の跡が残っているばかり。あとは広漠たる白茶けた大地を、熱せられた小旋風が駆け抜けるだけ。
写真の水晶は、ここの土産物屋で見つけた。ラベル(?)には、陽関産と書いてあったが、そんなことを信じる私ではない。さも訳知り顔で、あれこれ聞き出していると、なんでも、ここから南に(砂漠の中を)400キロほどいったところに、地元の人が大紅山と呼ぶ場所があり、岩が赤いからそう呼ばれているらしいのだが、そこで採れた水晶を、観光客目当てに陽関まで売りにきているのだという。一応値段がついていたが、やはり真に受けるわけにいかないので、駆け引きなし、欲しい値段を言って売ってもらった。
ちなみに、中国の現地名というのは、通称的なものが多く、南にある山はどこへ行っても南山と呼ばれているし、山の上に池があれば天池と呼ばれる。敦煌に戻ってから、何人かの人に大紅山の場所を聞いてみると、新疆のずっと西の方、酒泉の方(敦煌より東)、聞いたこともないなどと、意見が別れた。帰国して調べると、貴州省にも同じ名前の有名な鉱山があることが分かった。
もっとも、この水晶が本当に「大紅山」のものなのか、砂漠の南から持ってこられたものなのか、私としてはまったく確信を持てないというのが本当のところ。それでも、大切な旅の記念であって、この石を見ながら、陽関に立ってはるかに眺めた砂漠のことを想ったりする。