154.シェーライト   Scheelite   (中国産)

 

 

怪獣…石?

方解石上の灰重石 (紫色は蛍石) 
−中国、湖南省郴州市香花嶺

灰重石 −中国、四川省綿陽市雪宝頂産

 

1781年、スウェーデンの化学者シェーレは、当時タングステン(スウェーデン語で、重い石の意味)と呼ばれていた鉱石から新しい元素の酸化物を単離し、タングステンが元素名として用いられることになった。

一方昔から、スズ鉱石を精錬する際、タングステンを含む鉱石(鉄マンガン重石)が混じっていると、複雑な化合物(スラグ)を作って著しく歩留まりが悪くなることが知られていた。「スズを狼のようにむさぼり食らう」この鉱石は、wolfart(ウォルファート)と呼ばれた(ギャラリーNo.90参照)。
1783年、スペインのデルイヤール兄弟が、鉄マンガン重石(ウォルフラマイト)から初めて金属を単離し、ウォルフラムと名づけた。こうした事情を受けて、この金属元素は現在タングステンと呼ばれ、元素記号にはWが採用されている。(ドイツでは今もウォルフラムと呼ぶ)。重い鉱石タングステンは、1821年にシェーライト(シェーレ石)と名づけられた。(cf. No.814No.815)

灰重石はカルシウムのタングステン酸塩で、短波紫外線で蛍光する。写真の標本は、美しい青白色を示す。タングステンの一部が、モリブデンに置き換えられていることも多く、そうした鉱石は蛍光色が黄色味を帯びる。モリブデンが2%に達すると、青みがすっかり消えて黄白色の蛍光を放つようになる。

画像はいずれも中国産。
上は湖南省の香花嶺(しゃんほありん)産で、36平方キロに及ぶ広大な多金属 Sn-Pb-Zn-W 鉱床を掘る鉱山地帯。 10世紀頃から採掘されていたという。山嶺の 1,594m地点には錫石のグライゼン鉱床がある。90年代中頃から美しい海緑色〜オリーブ緑色の蛍石標本が市場に出回るようになった。No.58の蛍石はおそらくこの産地のもの。この標本は水晶の結晶の片側を方解石が覆い、その上に灰重石や小さな蛍石が生じている。

下は四川省産。雪宝頂山は標高 5,588mの高山という。4,480m地点の石英脈に伴って発達したグライゼン鉱脈に、宝石質淡青色のアクアマリンや無色のゴッシェナイト、双晶の錫石などが、白雲母で覆われた母岩に載って出た。90年代初頃から盛んに出回り、飴色〜オレンジ色の美しい灰重石も定番となった。採集地点付近にピンウー Ping Wu、フーヤー Huya という小さな集落があり、その名をとった鉱山名で呼ばれることがある。この産地の灰重石の美しさは異常で、宝石としてカットされるものもあった。西側市場に燎原の火の如く進出して、そんな辺境地の石なのに潤沢かつ定常的に供給されていた。ピンクの蛍石も出たそうだが、私は見たことがない。

付記:灰重石の蛍光→ No.813(マラヤ石)。 「蛍光する石たち」⇒「蛍光とは」、同⇒「光る石」の鉱物リストもご参照ください。
No.813 の追記も参照。タングステン鉱が注目される以前、日本の錫鉱山では錫石に伴う黒重石(鉄重石)が「烏」と呼ばれて、厄介もの扱いされた(精錬に障るため)。

補記:正方晶系で、自形結晶はc軸方向にやや伸びた八面体。{112}面の錐面は正三角形に近いが、{111}面を錐面とする結晶は尖ってみえる。

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