C14.ジェード果実 Jade Fruits (ミャンマー産) |
日本ではヒスイというと一般に爽やかな翠色の、幾分透明感のある石を連想するのが普通で、そうでないもの、例えば白、黒、ラベンダー、青、褐色の不透明な石は、「これもヒスイなんだよ」といったところで疑いの目を返されがちである。「鉱物学ではそうかもしれないけど、宝石のヒスイはそんなんじゃない」とその視線が語っている。もっともなことで、鉱物標本と宝石とでは石の定義も期待する資質も違ってくる。
例えば、スス(カーボン)を多量に含んだ黒い小っちゃなダイヤモンドを、ダイヤだよと囁いて贈り物にしたら、こんなのダイヤじゃないわ、と憤慨されても仕方があるまい。憤慨されなかったとしたら…多分そのひとはあなたのことが好きなのだ。
画像の細工物はその昔、ヤンゴンの観光客向けヒスイ店で手にいれた。鮮緑色のヒスイの宝石的価値が高いことは宝石商の歩くところ万国共通なので、ミャンマーでもそれは変わらない。しかし、ミャンマー国内でこの種の白色〜セラドン色の、あるいは苔のように暗い緑色の入るヒスイ材を使った細工物が大量に製作されてきたのも事実である。宝石とまで言えないにせよ、それなりに価値があり、また需要が伴っているらしい。この色あいは軟玉に似ている。
お店の方の口ぶりでは、透明度の高い無色のヒスイはたいへんに貴重なもののようで、最初は気のない素振りの私だったが、ついムードに乗せられて好ましく感じたものをひとつ手にとった。とったら手から離れない。
ここ数年、日本でもこのタイプのヒスイが盛んに紹介されるようになった。氷種(ひょうしゅ)と呼ばれている。ヒスイらしい強い光沢と砂糖のようなややくぐもった半透明の光は、ひんやりと心地よさげで、なるほど氷に見立てて妙だと思う。純粋なヒスイだというので評価され、透明度の高い「氷翡翠」は宝石級に高価である。
致知出版社「翡翠」(1988)の「ヒスイの種類・一覧表」にはこのタイプのものは出ていない。久米「新宝石辞典」(1985)にも、近山「宝石宝飾大事典」(1995)にもない。とはいえ、昔はなかったといってしまうのは早計だろう。あったことを証明するのは簡単だが、なかったことの立証は難しい。
春山行夫の「宝石2」に「雪白のなかにとじこめられた苔」というタイプへの言及があって、あるいはこれかとも思ったが、雪白はむしろ透明感のない石を指して、氷タイプとは違っていそうだ。上記、「翡翠」の著者の一人が、純白の樟脳玉に似た、雪の照り返しのように明るい石を見せてくれ、「現地ではすごく評価されているのよ、みんな大切に蔵って売りたがらないから、めったに手に入らないの」と言っていたのが、この雪白かと思う。
いずれにしてもこの石は、今となっては旅のよい記念になっている。折ふし手にとって、一緒に旅行したメンバーのことを懐かしく思い出したりする。
「追憶は翡翠だ。それを大切に扱わねばならぬ」 by
韓素音