232.クラン石  Kulanite (カナダ産)

 

 

クラン石 −カナダ、ユーコン準州、ラピッド・クリーク産

 

1974年に始まった本格的な採集活動の後、アル・クランらは天藍石やワード石、アロハダイトの驚異的な標本を手にロイヤル・オンタリオ博物館を訪れた。鑑定を依頼するためである。かねがね民間から持ち込まれる変哲もない標本ばかり相手にしていた博物館は、これらの宝物に狂喜乱舞した。協調関係が育まれるのに時間はかからなかった。

クランらの協力を得て、マンダリーノ博士とスターマン(スツルマン)博士のロス・リバー訪問が実現した。天候は申し分なく、蝿は少なく、ラピッド・クリークにはヒメカワマスが泳いでいた。秋の群葉が鉱物愛好家の天国に、素晴らしい景観を添えていた。クランとペニキスは天藍石やアウゲライトの世界級の標本採集に余念がなかった。その姿を横目に、スターマンは意志の力を振りしぼって、本来の仕事である学術調査に集中した。そして周辺のあまり重要でない鉱床から、平たい天藍石と思われる風変わりな鉱物を採集した。
ところが石をトロントに持ち帰って分析してみると、なんと天藍石ではなく、バリウムを含む未知の燐酸塩鉱物だったのである。びっくり。この鉱物はアル・クランを記念してクラン石と命名された(最初の標本採集者がクランだという説もあり)。さらに一緒に持ち帰った藍鉄鉱に似た淡青色の石も新鉱物であることが分かり、バリサイトBariciteと命名された。
素晴らしい標本に眼を奪われて、地道な学術調査を忘れてはならぬ。

クラン石はペニキス石(言うまでもないがペニキスに因む)と類似の鉱物で、Ba(Fe,Mg)2Al2(PO4)3(OH)3の組成を持つ。Fe リッチなものがクラン石、Mgリッチなものがペニキス石と呼ばれる。Mgが減るほどに緑色が薄れ、暗色に近づく。ラピッド・クリークのクラン石は採集地点によって成分変化が大きく、ときに多量のマンガンを含む(Bjarebyite に近づく)ことがある。なおクラン石に比べて、ペニキス石はかなり珍しいそうだ。

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