231.燐ばん土石/オージェル石 Augelite   (カナダ産)

 

 

アウゲル石−カナダ、ユーコン、ラピッドクリーク産

オージェル石 −同上

 

北極海に面した、カナダ・ユーコン準州北東部に、世界的な燐酸塩鉱床が発見されたのは 1970年代のことであった。ボーフォート海に注ぐマッケンジー川流域のビッグ・フィッシュ・リバーとラピッド・クリークから、天藍石(Lazulite)やアウゲライト(Augelite/オージェライト)を始めとする世界級の標本が採集されたのだ。

産地に関する情報は、1959年に行われた天然ガス・石油資源調査の際に、すでに寄せられていたという。しかし以後 10年間、それを確認した者はなかった。1971年の夏、カナダ地質調査局のヤング博士は、通称クロスカット・クリーク(ラピッド・クリークの西域)を測量中に天藍石等の燐酸塩鉱物を見つけた。その直後、やはり周辺の鉄鉱床を探査していたウェルカム・ノース・マインズ社の著名な探鉱家、「ロス・リバーのアル・クラン」が、塊状の天藍石を得た。さらに彼の助手が結晶を拾ってくると、アル・クランはこの石に興味津々となった。当時ブラジルで働いていた友人のガナー・ペニキスを呼び寄せると、ヤング博士を訪ね、発見した鉱物に関するレクチャーを受けた。ノース・マインズを退社し、妻やペニキスらと探鉱会社を立ち上げた。かくて 1974年、クランらは本格的な産地探査に乗り出したのであった。

アウゲル石(オージェル石)は、Al2(PO4)(OH)3の組成を持つ3成分系の鉱物である。和名「燐ばん土石」が示すように、土状(Earthy)で産出することが多く、良い結晶の産地は少ない。かつてカリフォルニアの白山、チャンピオン鉱山から無色透明の石が出て宝石にカットされたが、現在では絶産となったか、採集不能だという(このテの情報ほどアテにならないものはないけれど)。
ユーコン準州は質・量ともに、最良の結晶標本産地といって過言でない。ラピッドクリークを走る断層周辺のブレッチア(破砕され角礫化した岩)に、淡く黄色〜黄緑色に色づいた美結晶を産する。これは微量含まれる鉄分に起因するとされる。断層から遠ざかるほど結晶のサイズが小さくなる傾向がある。面白いことに、より一般的なアルミニウム燐酸塩であるバリッシャー石銀星石は、ここでは発見されていないそうだ。写真の標本は、天藍石と菱鉄鉱(褐色)を伴っている。
原産地はスウェーデンのヴェスタナ鉄山で、1868年 C.W.Blomstrand によって記載された。ギリシャ語の Auge (輝き)に因む。ついでにいうと、普通輝石 Augite も同じ語に因んでヴェルナーが命名した(1792)。

備考:主参考文献はミネ・レのユーコン特集(V23N4,1992)♪

追記:下の画像は、ボリビア産のアウゲル石。無色透明で結晶面に照りがあって美しい。白色柱状結晶は、重晶石。

アウゲライトと重晶石 −ボリビア、マチャカマルカ産

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