275.ベゼリ石 Veszelyite (USA産)

 

 

ベゼリ石−USA、モンタナ、黒松鉱山産
(顕微鏡下で撮影)

 

ベゼリ石は珍しい二次鉱物ながら、独特の冴えた緑青色と牙状の結晶で、愛好する人の多い石。
19世紀の終わりにルーマニア(当時ハンガリー領)で発見されて以来、数ミリ以上の大きさの結晶は知られていなかったが、1970年代になってモンタナ州ブラック・パインから数センチ大の美晶が出たことで、一気に有名鉱物の仲間入りを果たした。当時採集された標本の写真を見ると、ちょっと他にない存在感を漂わせ、見るからにタダモノでない。ブラックパインは19世紀末に活況を呈した銀山で、長らく閉山していた後、この頃再び銀山として活動を始めていた。カラフルな二次鉱物の宝庫であり、砒酸を含むベゼリ石の類縁種フィリップスバーグ石は、当地で発見された新鉱物だ。余談だが、モンタナ・サファイヤで有名なサファイヤ・マウンテンのすぐ傍である。

この類の微小な、しかし人目を惹く希産二次鉱物は種の同定がなかなか難しいらしく、昔から新種か否か、学者方でも悩むことが多かったらしい。日本では明治時代に秋田県荒川鉱山(の支山)に出たベゼリ石が有名で、一時は荒川石という新鉱物になった。戦時中に出版された本邦鉱物図誌4(昭和16年 大地書院)には、荒川石の項があり、次のように記されている。

荒川石は秋田県仙北郡日三市鉱山より産する青緑色の美しい鉱物である。明治33年に若林彌一郎博士により発見せられて以来、その性質の詳細が決定せず、荒川石なる名前で通用してきたが、最近形態よりこれをベゼリ石と決定された。
すなわち、最初若林彌一郎氏の珪孔雀石としての記載があり(明治33年)、後福地信世氏はこれを燐銅鉱とせられた(明治34年)。大正2年分析の結果むしろベゼリ石に近いことが見出されたが、大正10年若林氏は「ベゼリ石に似るが、砒素を含まないので異なる」とせられ、新鉱物として記載され、神保小虎氏はこれに「荒川石」なる名前を与えられた。
一方外国においても、F.P.Mennell は南アのローデシアにこの荒川石と全く同様なものを見出した。すなわちベゼリ石に似ているが砒素を含まないものである。すなわちベゼリ石の原産地はハンガリーのMoravicza で、Schrauf の研究によると10%の砒素を含むとされている。
ところが、最近詳細な形態的の研究により、荒川石はやはり形態的にベゼリ石なることが判った。相続いてV.Zsivny は原産地のものについて詳細に調べた所、砒素を含むのは何かの間違いで、まったく砒素を含まぬことを知った。ここで荒川石は分析形態共にベゼリ石と決定された。

「何かの間違い」というところがお茶目な学者気質で、要は最初の報告がおかしかったことにされたわけだが、もし本当に砒素を含んでいたとすれば、上述のフィリップスバーグ石が実は記載より1世紀も前に発見されていたことになるかもしれない。
ちなみに、昭和27年頃、岐阜県神岡鉱山に出たベゼリ石は、亜鉛を含む変種というので、神岡石(Kamiokalite)の名を与えられたこともあったが、最終的にやはりベゼリ石(の亜種)となった。ベゼリ石の名は発見者であるハンガリーの鉱山技師A。ベゼリ(1820-1888)に因む。

下の画像はコンゴのシャバ州キプシ鉱山で発見されたキプシ石という鉱物で、1985年に記載されている。フィリップスバーグ石とは砒酸−燐酸成分系のシリーズをなす燐酸側の種である。1992年のMR誌に、「キプシ石も荒川石も今ではベゼリ石と同じものであることが知られている」と書いてあるが、さらにその後、別種ということに評価が定まったようだ。こうなってくると肉眼鑑定はお手上げ。

キプシ石 −コンゴ、シャバ州キプシ鉱山産

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