274.ホアキン石 Joaquinite (USA産)

 

 

ホアキン石 −USA、CA、ベニトアイト・ジェム鉱山産

ストロンチオ斜方ジョアキン石(奴奈川石)
−新潟県青海町橋立金山谷産

(いずれも顕微鏡下で撮影)

 

Joaquinite を何と読むか、は判断の難しいところで、MR誌Vol.8のカリフォルニア特集号には、"Wah-keen-ite"と載っている。わ〜・き〜ん・あいと。ベニト石で有名な同州サンベニトの Joaquin Ridge で発見され、産地にちなんで命名された石だから、現地名がわ〜き〜んなら、当然そう呼ぶべきであろう。でもこの発音はかなり訛っているに違いなく、訳すならホアキン石でないかと勝手に思う。とはいうものの、本邦では普通ジョアキン石で通っている。なんでだろ〜・なんでだろ。

さて、ジョアキン石(←日本の学識者に敬意を表しまして)は、セシウム、チタン、ニオブといった珍しい希元素を含む鉱物で、さらにバリウムやフッ素や時にストロンチウムを加えて、これらの成分が濃集した熱水脈から晶出する。そんな鉱脈はどこにでもあるはずがなく、平たく言えば産地の限られた珍しい鉱物である。原産地では、見栄えのよいベニト石や海王石の美晶に紛れて、蜂蜜色の箱型微結晶が半ば母岩に埋もれており、そうした標本を見つけると、くすぐったいような嬉しさに包まれる。お菓子のオマケでレアアイテムが当たったときの気分だな。

ところで最近このテの標本をあまり見かけなくなった気がするので、その点標本商さんに訊ねてみた。
と、師のたまわく、ベニト石や海王石は普通白い沸石(ソーダ沸石)に埋もれており、沸石を塩酸で溶かして結晶を露出させる。この時、沸石の部分をいくらか残し、結晶がはずれないように注意する。一方、ジョアキン石は、白い沸石とその下にある青白〜灰緑色の閃石部分との境界あたりに入っている。従って沸石を溶かしきらないとなかなか見つからないのです。
というわけで、別に採れなくなっているとか、そういうことではないらしい。本鉱が欲しいけど市場にないと悩んでいる方は、屑母岩を安く買って、自分で溶かし出してみるといいかもね(師−温度が低いと珪酸ジェルの塊が出来て、うまく溶けないので、作業は夏場にした方がよろしい)。

ジョアキン石は単斜晶系の鉱物で、セシウムの代わりにストロンチウムを含むものは、ストロンチオ・ジョアキン石という別種になる。またほぼ同じ成分で斜方晶系の結晶構造をとるものがあり、斜方ジョアキン石と呼ばれる。バリオ斜方ジョアキン石というのもある。この3種はいずれもサン・ベニトが原産で、1982年にジョアキン石グループの新鉱物として登録、整理された。
このほか、ストロンチウムを含む斜方晶系の種もあり、すでに1971年に発見されていたものの、正式な命名手続きがまだだったので、この時点でストロンチオ斜方ジョアキン石として一緒に登録された。
原産地は新潟県青海町の金山谷。ここは「日本でもベニト石が採れる場所!」としてその筋では有名なところ。やはり両者は相伴って産出する傾向があるのだろう。カリフォルニアのベニト石はあまりに立派なので、ジョアキン石は影に隠れて添え物扱いされがちだが、当地ではジョアキン石の方が綺麗な結晶を見せてくれることが多い。あえて言うなら、主客入れ替わった観がある(もちろん、当地のベニト石も可愛い!)。

画像(下)はそのストロンチオ斜方ジョアキン石である。ちょっと分かりにくいが、中央やや左寄りに、錘状二等辺三角の結晶面が見えている。なお発見者たちは、姫川の古名、奴奈川(沼河)にちなんで、この石を奴奈川石(Nunakawaite)と名付け、論文でも使っていたが、今は現地名あるいは和名として通用しているようだ。

追記:なお、閃石部分も酸処理をするとぼろぼろになるので、なるべくソーダ沸石だけに酸をつけるのが望ましい。業者は母岩を樹脂で固めたり、グラインダーで沸石を削ったりと、それぞれにノウハウを駆使して「製品」を作り上げている。−これも師の薀蓄をおすそ分け。

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