277.軟玉  Nephrite (日本産)

 

 

汀に濡れて転がっていると、とても綺麗だよ

緑色の軟玉(ネフライト) -新潟県姫川流域産



中国では質のよい透閃石(Tremolite)や緑閃石(Actinolite)を美しく磨き上げ、玉(ゆ〜)と称してことのほか珍重する伝統があった。玉にはねっとりとした色艶が具わり、触れると柔らかく温かな生命の気が、掌を通して身中に伝わる心地がするのだった。
多くの時代に玉は希少なものであった。手に入らないときや高価で使えないときは、代わりにほかの石材、例えば蛇紋石類や長石類(アマゾナイト)、玉髄(クリソプレーズやアベンチュリン)、滑石などが用いられた。しかし、彼らの真の愛好は常に緻密な閃石類にあって変らなかった。現代にネフライト(軟玉)と呼ばれるこの石は、君子の徳にもなぞらえられる「真正の玉」なのだった。それは民族の信仰であり、何千年に亙る崇拝の対象であった。
さて…

ある寒い冬の日、一人の若者が雪道を10キロも歩いて、玉細工師の家を訪ねた。
ほうきを持った細工師が扉を開けた。「何かね?」 
「玉のことを学びたいのです」 と若者が言った。
「いいだろう」 細工師は彼を中に通すと、暖炉の前に座らせた。
「凍えているようだ。まず暖まるがいい」
二人は黙って熱いお茶を飲んだ。
ひと心地つくと、細工師は緑色の石を若者に持たせた。そして蛙の話を始めた。
若者は言った。「蛙のことより、玉について教えてください」
細工師は石を取り上げた。
「一週間したら、またおいで」

次の週、若者が再び訪れると、細工師は前とは違う色の石を彼に握らせた。
そして蛙の話を始めた。若者は遮って玉の話をせがんだ。細工師は石を取り上げて若者を帰らせた。こうして何週間も同じことが繰り返された。
若者は次第に口をはさまなくなった。黙って石を握り、話を聞き、お茶を淹れ、台所を片付け、ほうきをとって床を掃くようになった。
春が来た。ある日、部屋を掃除していた若者は、机の上に転がっていた緑色の石を手にして呟いた。
「これは真正の玉ではない」

写真は富山と新潟との県境の海岸で拾った軟玉である。このあたりはひすい海岸と呼ばれ、ひすい(硬玉)が採れることで有名だが、軟玉にもいいものが見つかる。両者が入り混じって産することもあり、例えば昨年暮れに公開が始まったフォッサマグナ・ミュージアムのひすい、「翠の雫」にも軟玉質(閃石質)の部分がある。
ひすいと軟玉の見分け方? なるだけたくさんの実物に触れるのが一番でしょう。

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