ひま話 鉱物の蛍光写真撮影について  (2011.8.24)


回顧的覚書き。 
昔は知らず、実は今となっては蛍光鉱物の撮影に特別なノウハウはない。ただカメラ側で装備していると非常に撮影が楽になる機能があって、強いて言えばそういう機能のついたデジタルカメラを使うことがノウハウといえようか。
 結論を先に言ってしまうと、今時の一般的な性能のもので、フォーカシングとシャッター速度をマニュアル操作出来るタイプのデジカメを三脚と組み合わせて使えば、蛍光写真は簡単に撮れる。 
写真撮影は道具(カメラだけでなく、照明、撮影スタンド、カメラサポート、撮影用の小物も含む)によって「出来ること」がおおよそ決まってしまうと思う。
 もちろん、その上に使いこなしの部分が乗ってくるのだろうが、これについて僕が言えることはほとんどない。 実践あるのみ。

以下、例によってだらだら話題が移ってゆく本文。


ホームページを始めて間もない頃(1999-2000年)、蛍光鉱物の写真を撮ってサイトに載せようとしたことがある。実際、何点かは撮影画像を載せたが、たいていの標本は絵にならなかった。 理由は簡単で、僕が使っていたカメラでは、

 1)微弱な蛍光を捉えて(オート)フォーカスを合わせることが出来なかった
 2)フォーカスが合っても蛍光を十分な明るさで写し込むことができなかった
 3)多少なり写せたとしても(暗部撮影で顕著に現れる)ノイズまみれの絵にしかならなかった

つまり、よほど蛍光の明るい標本以外は撮影出来なかったのだ。 また撮影できても再現された蛍光色が似ても似つかないケースもあったから、絵として使える画像はさらに少なかった。 これは道具の限界だった。 
(※当時「蛍光する石たち」というコーナーを作って撮った写真をアップした。現在このコーナーの画像は撮り直したものに変わっているが、ベニト石ゼクツァー石はまだ以前のままである。)

その頃デジカメは黎明期で、今から見るとごく低画素数のコンパクトカメラが主流だったし、フィルムカメラに比べるべく もない稚ない絵しか出力できなかった。それでも、1997年に80万クラスだった画素数は、翌年には130万画素が一般的となり、1999年には150/200万画素機の登場をみていた。 
僕が買ったデジカメはFuji のFine Pix 1500 という、150万画素の原色系CCDセンサーを搭載したエントリーモデルだった。 このカメラは発色がナチュラルで美しかった。モノトーニアスな被写体のディテイル描写はあまり得意でなかったが、僕は2,3年前まで愛用していた。旅のひとコマのベルギーとかクウェートの画像はこのカメラで撮ったものだ。
単三充電池(エネループ)が使えてかなり気に入っていたのだが、やがて記録媒体に32MBまでのスマ ートメディアしか使えないことがネックとなった。つまりメディア自体が(2007年に)製造を止めてしまったのだ。
メディアが壊れた時に慌ててFuji に残っていた純正品の在庫を購入したので(お一人様 1枚限り!)今も使うことは出来るのだが、次にメディアがイカれてしまうとどうしようもないので使用を躊躇っている。カードの肉厚が薄いせいか、繰り返し着脱するうちにヤラれてしまうようなのだ。ちなみに今時のUSBカードリーダーにはスマートメディア用のスロットがついていない。

Fine Pix 1500の仕様で蛍光撮影に関係ありそうな部分をメーカ ーのWEBサイトから拾ってみると、次の通り。

・撮影感度:ISO125相当 
・焦点距離:f=6.6mm(35ミリカメラ換算38mm相当) 
・撮影可能範囲:マクロ約10cm〜60cm 
・フォーカス:オートフォーカス(マクロ切り換えあり) 
・シャッタースピード:1/ 4〜1/ 2,000秒(メカニカルシャッター併用) 
・絞り値:F2.6/F7.2自動切り換え 
・露出制御:TTL64分割測光プログラムAE(マニュアル撮影時: 露出補正可能) 
・ホワイトバランス:自動切り換え(マニュアル撮影時:7ポジショ ン切り換え可)

すなわち、このカメラは数センチサイズの鉱物標本を手頃な大きさ(フレーミング)で写せるマクロ撮影機能はあるものの、カメラが自動フォーカシングを行うために、暗い被写体はピントが合いにくく、ピンぼけ画像の量産になりやすい。もっとも最近のカメラはピンがこないとシャッターが切れないものもあるので、この点は切れるだけましだったかも。
シャッター速度は長くて1/4秒までのため、暗い蛍光を写すには全然足らない。
感度はISO125で昼間の屋外では問題ないが、室内撮影ではフラッシュを使って光量を補う必要があるレベル、鉱物の蛍光はどちらかというと論外である。そして低速シャッターではノイズが乗った。

 鉱物標本の蛍光を撮る場合、理想的な段取りは、 

1)あらかじめ通常の環境光下で標本をセットして、適当なフレーミングが得られるようにカメラを設置しておく。三脚などを使ってカメラを固定してしまう。 自分の服装を含めて周囲に蛍光性の物体を置かない。

2)ホワイトバランスはAUTOか晴天で構わない(ケース・バイ・ケース)。
デジカメの撮像素子は人間の目には見えない(見えにくい)長波長紫外線に反応して青く映し出す(短波長紫外線はレンズが吸収するのでセンサーに届かない)。
また紫外線ランプ自体が紫外線と同時に若干の青色可視光線を放射しているので、これも鉱物の蛍光と一緒に写ってしまう。なので、最初に補正できればいいのだが、プリセットWB機能のついたカメラでもなかなか難しい。 
気になるなら適当なUVフィルタまたは波長カットフィルム(ローパスフィルタ)をレンズ前に置いてコントロールすることを考えた方がよい。緑色〜青色蛍光を撮るなら気遣うほどのことはない。

 3)環境光下で標本にフォーカスを合わせる。なるべくならマニュアルフォーカスが可能で、フォーカスを固定しておけるカメラが好ましい。(例えばデジイチでマニュアルフォーカス設定) 
これが出来なければ蛍光撮影時にフォーカスをオートで合わせることになる。明るい蛍光ならいいが、暗い蛍光の場合は電気スタンドなどを使ってフォーカシングが可能な程度に補助光を加えて合わせ、それから補助光を消すといった操作が必要になる。この場合シャッター速度や絞り値が測光時に自動設定されてしまうとマズい。 これらのパラメータが独立にマニュアル調節できる(マニュアルモードのある)カメラが望ましい。少なくともシャッター速度優先撮影の機能が要る。

しかしモノは考えようで、若干の補助光を照てたまま蛍光を撮影する行き方もある。うまくいくと蛍光しない部分が暗く写った、標本の全体像が分かる写真が撮れる。この場合ホワイトバランスはオートでは不都合である。

 4)環境光を消して紫外線ランプで標本を照射し、カメラのシャッターを切る。
シャッター速度は蛍光の光量に応じて飽和しない程度に長く設定する。青色の蛍光は比較的速度が稼げるが、赤色系の蛍光は見た目よりもエネルギーが弱く、数秒以上の露光が必要になることが多い。
超低速シャッターが切れる(またはBulkモードが使える)カメラで三脚を使う分にはあまり速度を(手ブレを)気にする必要がないので、なるべく感度を低くしておく方がゲインノイズは乗りにくい傾向がある。逆に長秒シャッターによって暗電流ノイズが浮かんでくるようなら感度を高くして高速シャッターにする。ケース・バイ・ケース。 環境温度は暑すぎず、寒すぎず。

5)紫外線ランプは標本の上方にスタンドなどで固定して、つねに一方向から照射するようにしてもよいが、手持ちで照らす方が便利である。標本の形状(蛍光する部位)に応じて露光中にランプの位置/向き/距離を変えたり、ワイパーのように動かすことで、標本の広い範囲で同程度の蛍光が写り込むように調整することが出来る。露光時間が数秒あるから出来る技だ。(露光時間を長くする目的で絞りを絞って撮影する行き方もある。NDフィルターを使うテもある)

以上、まとめると、 カメラの機能として
 ・マニュアルフォーカスができる 
 ・シャッター速度を(なるべく絞り値と独立で) マニュアル設定出来る

ことが(ほぼ)必須で、 
 ・高感度が選択できる(高感度でもノイズが乗りにくい) 
ことが可能ならベターである。 

で、結論として、今時のエントリーモデルのデジイチや、やや高級志向のコンデジには、たいていこれらの機能が盛り込まれている。 ノイズ処理技術も向上した。
というわけで、たいして苦労もなく蛍光写真が撮れるのだ。 技術の進歩はありがたいもので、10年前には(普通のリーズナブルな価格のカメラでは)不可能に思えたことが、今では当たり前に実現できるようになった。

いくつかトピック的に補足すると、
 ・画像に乗ったノイズはフリーのノイズ除去ソフトを使って除去することも可能である。その前提ならノイズについてはあまり気にする必要がない。ただしディテイルは失われがちである。

 ・蛍光色の写真再現性に問題がある鉱物もあるが、状況は多分カメラによってまちまちだろうし、通常光撮影でも色目の違ってしまう鉱物は少なくないので、僕としては仕方がないと思う。 

・しっかりフォーカシングして撮影すると、通常光で撮影したときよりも、蛍光写真の方がディテールが鮮明に見えることが多い。 
思うに特定の(ほぼ単一)波長の蛍光を拾って画像化する方が 、連続的な波長の(屈折率の異なる成分を含んだ)光で撮影するよりも、散乱やレンズの色収差の影響が少なくなるのでいい結果が得られるのだと思う。
センサー(ベイヤー型)と画像処理エンジンの特性によって単色光の方がシャープに見える(処理誤差が少ない)という要素もあるかもしれない。

水亜鉛土の結晶の蛍光写真

・紫外線ランプを買われるなら、短波と長波を切り替えられるものがベターだと思う。私が最初にランプを買ったときは、「長波で蛍光する鉱物は少ないからビギナーはまず短波があればよい」と標本商さんに教えられて短波紫外線専用のランプを求めた。
これはウラン(ウラニル)を含む鉱物、たとえばオパールや玉滴石や方解石、代表的な蛍光標本であるフランクリン産珪亜鉛鉱やメキシコ産アダム鉱などの緑色蛍光は長波紫外線では観察できないという、もっともな理由がある。
しかし同じ標本に異なる波長の紫外線を照てた時、違った色に蛍光する様子を観察出来るのは格別な喜びであって、これを見逃すテはない。SW/LW2波長切り替え式をおすすめしたい。

メキシコ、ヌエバ・レオン産の方解石の蛍光 上から SW, MW, LW紫外線による

この産地の方解石は長波LW、中波MW、短波SWのそれぞれで蛍光色が異なる、一粒で3度おいしい標本なのだが、このタイプの標本はあまり多くなく(知られていないだけかもしれない)、今のところ、3波長切り替え式UVランプのコストパフォーマンスはあまりよろしくない。

最後に、ここに書いたようなデジカメの進歩に拠って、そしてカメラマンの撮影技術によって、実現した蛍光鉱物写真本が、「光る石」とその続編です。


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