この鉱物鑑別表は、安東伊三次郎著「鉱物界之現象」−明治42年訂正八版−に記載されている内容を、ほぼ原文に忠実に写したものです(一部現代表記に改め)。
やや古臭い内容かもしれませんが、酸を加えた時の変化、熱した時の変化といった記事が興味深いと思い、ご紹介する次第です。
なお緑色字のコメントは佐藤伝蔵著「大鉱物学」−大正7年−に拠って、SPSが適宜、補足したものです。こちらは酸の反応に限らず、アルカリに対する反応も記した部分があります。
同様に紫字のコメントは、須藤俊男執筆・伊藤貞市著「本邦鉱物図誌 第4巻」−昭和16年−に拠って補足したものです。
(本巻のみに記述のあるものは、項目を追加しました)
かつて、フィールドで、あるいは試験管の並ぶ赤レンガ造りの実験室で、一心不乱に鉱物の鑑別を行っていた、眼光鋭き先人たちのときめきを幾分なりとお伝え出来れば…と思います。
鑑別表は、次の甲、乙、丙 3種に大別されます。それぞれページを分けてあります。
・金属光沢を有するもの (甲) | |
鉱物 | ・明らかなる金属光沢を有せず有色の条痕を生ずるもの(乙) |
・非金属光沢を有し白色あるいは淡灰色の条痕を生ずるもの(丙) |
注意!
※現在、硬度の表示は、整数またはその中間数(たとえば、5.5、3.5など)のみが使用されており、ここに挙げた端数表示は行われていません。
※、名称、化学式(成分)は、現在知られている内容と異なることがあるので、正確なデータが必要な時は最新の参考書を当たってください。
・赤色または褐色なるもの(1) | |
・黄色なるもの(2) | |
(甲)金属光沢を有する鉱物 | ・白色なるもの(3) |
・灰色なるもの(4) | |
・黒色なるもの(5) |
(1)赤色または褐色なるもの
名称 | 色 | 条痕色 | 硬度/比重 | 注意 | 成分 | 酸を加えた時の変化 | 熱した時の変化 | |
01 | 銅(Copper) | 銅赤色 | 銅赤色 | 2.7/8.9 | 塊状、樹枝状など (錆びて黒色または緑となること多し) |
Cu | 硝酸を加えると酸化窒素を発生して溶く、その溶液はアンモニアを加えると青色に変ず | 吹管に熔ける |
02 | 淡紅銀鉱(Proustite) | 朱紅色 | 紅色、時として黄色 | 2.5/5.42 | 我が国に少しく産す、濃紅銀鉱との識別難し | Ag3AsS3 | 硝酸を作用させると硫黄を分離す | 炭上にては容易に熔けて硫臭を発す (吹管の前に熔け、砒素の臭気を放ち、また銀を還元す) |
03 | 斑銅鉱(Bornite) | 褐紅色 | 暗灰黒色 | 3.5/5 | 黄銅鉱に似たれども大いに赤色を帯ぶ、時を経れば青赤色に変ず | Cu3FeS3 | 濃厚なる塩酸に溶けて硫黄を放つ | 容易に熔けて黒色磁性の球を生ず |
04 | 赤銅鉱(Cuprite) | 赤色〜褐色 | 褐赤色 | 3.5〜4/6 | Cu2O | 硝酸を加えると溶解す、その希溶液はアンモニアを加えると青色を呈す (酸類およびアンモニアに溶ける) |
ピンセットにて火中に入るれば容易に熔け、炎に緑色を呈せしむ (木炭上に熱すれば始め黒色となり、ついに熔けて銅を還元す) |
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05 | 金紅石(Rutile) | 赤色〜褐赤色 | 灰色〜黄褐色 | 6〜6.25/4.2 | しばしば正方柱状の結晶をなし、線条あり、炭上にてソーダと共に熱するも金属を生ぜず | TiO2 | 作用なし | 吹管にて熔けず |
06 | 錫石(Cassiterite) | 褐色〜赤褐色 | 灰色〜淡褐色 | 6〜7/6.8〜7.2 | 磁性なし、重い、一方向にへき開 | SnO2 | 作用なし | 吹管にて熔けず、ソーダと共に長く炭上に熱すれば白蒸皮を生ず (同じく、金属錫を得べし、と) |
− | 紅砒ニッケル鉱 | 銅、赤、帯紅白 | 黒 | 5〜5.5/7.5 | 砒素の臭気、緑色の錆色に注意 |
(2)黄色なるもの
名称 | 色 | 条痕色 | 硬度/比重 | 注意 | 成分 | 酸を加えた時の変化 | 熱した時の変化 | |
07 | 金(Gold) | 金黄色 | 黄色 | 2.5 | Au | 作用なし (王水に溶く、塩素と結合し塩化金を生ず、もし銀を混ずれば王水中に白き塩化銀の沈殿を生ず) |
吹管にて熔融す | |
08 | 黄銅鉱(Chalcopyrite) | 黄色 | 緑黒色 | 4.2/4.2 | 時には曇彩を有し表面青色を帯ぶ、普通なる鉱石なり | CuFeS2 | 硝酸を加え注意して熱すれば少しく之に溶く、その希溶液はアンモニアに逢って青色を呈す (硝酸には硫黄を放ちて溶く) |
吹管の前に爆跳し、木炭上には硫黄を放ちて熔け、灰黒色の塊を残す、閉管中に熱しても硫黄を昇華せず |
09 | 磁黄鉄鉱(Pyrrhotite) (磁硫鉄鉱) |
黄色 | 灰黒色 | 3.5〜4/4.5 | 通常少しく磁性を有す (特有の臭気、時にNiを含む) |
Fe7S3 | 硝酸に溶けて硫化水素を生ず (塩酸中に煮る時は硫黄及び硫化水素を放ちて溶く) |
吹管にて熔融し磁性の小球を生ず(帯黝黒色) |
10 | 黄鉄鉱(Pyrite) | 淡黄色 | 褐黒色 | 6.5/5 | (8)よりは硬く色淡し、立方体の結晶にはその面に平行線を有すること多し、普通なる鉱物なり | FeS2 | 予め熱して硝酸を加えれば少しく之に溶く、之に黄血塩を加えると青色沈殿を生ず | 吹管にては硫臭を発し、熔けて磁性ある球となる (閉管中に熱すれば、硫黄を昇華す−黄銅鉱の項参照) |
11 | 白鉄鉱(Marcasite) | 白黄色 | 黒色 | 6/4.7 | 色及び光沢は黄鉄鉱に似たり、結晶集まりて球状、錐状または櫛歯状をなす、斜方晶系なり (容易に分解して硫酸を出す) |
FeS2 | 吹管の前の反応は黄鉄鉱に同じ、450度に熱すれば徐々として黄鉄鉱に変ず | |
− | 黄錫鉱 | 黄灰 | 黒 | 4/4.4 | 塊 | ローソクの火で撥ねる |
(3)白色なるもの
12 | 銀(Silver) | 銀白色 | 銀白色 | 3.5/10.5 | (展性を有し錆びて黒色となる) | Ag | 硝酸溶液は塩酸を加えると白色沈殿を生ず、この沈殿はアンモニアに溶解す (硝酸には容易に溶けて硝酸銀を生ず) |
吹管の前には容易に熔く |
13 | 毒砂(Arsenopyrite) | 錫白色〜灰色 | 灰黒色 | 5.5/6 | 硬くして鋼と打てば火を発し葱臭を生ず | FeSAs2(FeにCoの代わることあり) | 炭上に熱すれば白色蒸皮を生じ、一種の臭を発す。而して磁性ある球を残すべし | |
14 | 砒(Arsenic) | 錫白色 | 錫灰色〜灰色 | 3.5/5.9 | 鮮面は錫白色なれども暫時にして灰黒となる | As | 熱すれば白煙を発し蒜(ニラ)臭を放つ (木炭上に熱すれば白色の蒸皮を与う) |
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15 | 蒼鉛(Bismuth) | 帯赤白色 | 灰色 | 2.3/9.7 | 柔脆なり (ナイフで切ることが出来る。脆い。二方向にへき開) |
Bi | 硝酸に溶け、その溶液に水を加えれば乳白色となる | 吹管の前には甚だ容易に熔け揮発す、木炭上には揮発して酸化蒼鉛の黄色の蒸皮を与う |
− | アンチモニー | 錫白 | 灰黒 | 3.5/6.6 | 一方向にへき開、普通は粒状 | ローソクの火で白煙を出すが融けぬ | ||
− | 輝コバルト鉱 | 錫白 | 黒 | 5.5/5.5 | 淡紅色を呈する、紫色の錆色、鉛・亜鉛・銀鉱に伴う、砒素の臭気を感ず | |||
− | カラベラス鉱(Calaverite) | 錫白 | 灰黒 | 2.5/9.3 | 条線のある双晶せる結晶または不規則な塊 | ローソクの火で融ける。時に淡黄 | ||
− | テルル | 錫白 | 灰黒 | 2〜2.5/6.3〜6.5 | ローソクの火で熔ける。柱面に平行に裂開あり、菱面体 |
(4)灰色なるもの
16 | 石墨(Graphite) | 鉄灰色 | 光輝ある黒色 | 1、砕け易し/2.25 | 脂感あり、紙に黒痕を残す (うわぐすりを塗った磁器の表へ条痕をつけると黒、粉末はあくまで黒味を帯ぶ) |
C | 作用なし | 硝石と混じ閉管中に熱すれば爆燃す |
17 | 硫水鉛鉱(Molybdenite) (輝水鉛鉱) |
鉛灰色やや黒色を帯ぶ | 光輝ある青灰色 | 1.5、砕け易し/4 | 脂感あり、紙に黒痕を残す、多くは葉状なり (条痕をこすると緑味を帯びる。黒鉛に比して紙を汚さぬ。茶碗の表の条痕は帯緑灰色、粉末は黒鉛と異なり灰色に緑味がある) |
MoS2 | 硝酸に溶けて酸化モリブデナムの灰色の滓を残す | ピンセットで火中に入るれば炎は緑色を呈す (吹管に熔けず、木炭上に熱すれば白色の蒸皮を与う、閉管中に熱すればSO2を放ち、真鍮黄色の結晶質の昇華物MoO3を生ず) |
18 | 輝安鉱(Stibnite) | 鉛灰色 | 暗灰黒色 | 2.5/4.5 | 燭火にて熔く、アンチモンの主要なる鉱石なり (結晶は曲げることができる) |
Sb2S3 | 純粋なるものは塩酸に作用せらる (温かき塩酸に溶く) |
炭上に熱すれば容易に熔け、白蒸皮を生ず (ロウソクの火にても熔く、木炭上に熱すれば白色の蒸皮を生ず) |
19 | 輝銀鉱(硫銀鉱)(Argentite) | 帯黒鉛灰色 | 帯黒鉛灰色 | 2.5/7.2 | 塊状の者は小刀にて切るを得、通常石英中に染鉱す、普通なる鉱石なり (針でさすとそのまま穴があく。ローソクの日で熔ける) |
Ag2S | 硝酸に溶けて硫黄を分離す、その溶液に塩酸を加えると白色沈殿を生ず、この沈殿はアンモニアに溶く | 炭上に熱すれば銀の小球を得べし |
20 | 方鉛鉱(輝鉛鉱)(Galenite) | 鉛灰色 | 暗灰色 | 2.75、砕け易し/7.5 | 打てば容易に砕けて立方体の小粒を生ず、通常少しく硫化銀を含む、銀量多きものは雲母状をなす | PbS | 硝酸に溶けて硫黄を分離す、硫化アンモニアを加えれば黒色沈殿を生ず | 炭上に熱すれば、剥爆す、ソーダを加え水を少し注加して熱すれば鉛の小球を得、黄色蒸皮を生ず (もし銀を多く含めば鉛は蒸発し、跡に銀を残す) |
21 | 輝銅鉱(硫銅鉱)(Chalcocite) | 帯黒鉛灰色 | 帯黒鉛灰色〜黒色 | 2.5〜3/5.7 | やや輝銀鉱に似たれども柔ならず (黄銅鉱、斑銅鉱、孔雀石に伴う) |
Cu2S | 硫黄を分離して硝酸に溶く、この溶液中にナイフを入るれば銅皮を付着す | 還元炎にてソーダと共に熱すればCuを得 (吹管の前に熔け、炎を帯青色に色付く、閉管中に熱するも硫黄を生ぜず、但し閉管中に熱すればSO2を生ず) |
22 | 黝銅鉱(Tetrahedrite) | 暗灰〜黒色 | 暗灰〜黒色、やや赤色を帯ぶ | 3〜4/4.7 | Cu8S7Sb2 | 硝酸に溶け、その溶液にアンモニアを加えれば青色を呈す | 炭上に熱すれば熔けて白色の昇華を生ず | |
23 | 赤鉄鉱(Hematite) | 鉄黒色〜鋼灰色 | 褐赤色 | 6.5/4.8 | 微密、鱗状、繊維状等をなす、少しく磁性を有することあり | Fe2O3 | 僅かに塩酸に溶く、その希溶液に黄血塩を加えれば青色沈殿を生ず | 炭上に熱すれば熔けざれども還元炎にて磁性を生ず |
24 | 輝蒼鉛鉱(Bismuthinite) | 淡鋼灰色 | 黒色 | 2.5/6.4 | 我が国に産すること稀なり | Bi2S3 | ロウソクの火にて熔く | |
25 | 毛鉱(硫鉛安鉱)(Jamesonite/Feather Ore) | 暗黝色 | 灰黒色 | 2/5.7 | 多くは石英に着生し長さ数分の毛髪状をなせり (鉛鉱と伴う) |
Pb2Sb2S5 | ローソクの火で融ける。鉛の反応 | |
− | 車骨鉱 | 灰黒 | 灰黒 | 2.5〜3/5.7〜5.9 | 歯車様の結晶 | ローソクの火で融ける。鉛の反応 |
(5)黒色なるもの
名称 | 色 | 条痕色 | 硬度/比重 | 注意 | 成分 | 酸を加えた時の変化 | 熱した時の変化 | |
26 | 石墨(Graphite) | 鉄黒色 | 他の性状は凡て(16)に述べたる者に等し | |||||
27 | 輝銀鉱(Argentite) | 灰黒色 | 灰黒色 | 他の性状は総て(19)に等し | ||||
28 | 軟マンガン鉱(Pyrolusite) | 鉄黒色 | 黒色、光輝を有することあり | 2〜2.5/4.8 | 緻密なるあり、土状なるあり。マンガンの普通なる鉱石なり (手を汚す) |
MnO2 | 塩酸を加え熱すれば塩素を発す | 酸化炎中にては硼砂球に紫色を呈せしむ (吹管の前に熔けず、熱すれば褐色となり酸素を放つ) |
29 | 濃紅銀鉱(Pyrargyrite) | 黒色、透過光線にては赤色 | 紫黒色 (赤) |
2〜2.5/5.8 | 他の銀鉱と共に産す (粉末または結晶の薄い所は赤みを帯びる。塊状のものは黒赤色を表すこと多し) |
Ag3SbS3 | 硝酸に溶けて硫黄を分離し、その溶液中に銅を入るれば銀皮を付着す | 炭上に熱すれば熔けて酸化アンチモンの白蒸皮を生ず (閉管中には熔けてSb2S3の赤色の蒸皮を与う、木炭上に熱すればSbの蒸皮及び銀粒を得べし) |
30 | 脆銀鉱(Stephanite) | 黒色〜鉄黒色 | 黒色〜鉄黒色 | 2〜2.5/6.2 | (光沢を失って黒色に錆びることあり) | Ag5SbS4 | 硝酸に溶けて硫黄を分離し、その溶液中に銅を入れれば銀皮を生ず | 吹管の前に爆跳し、Sbの蒸皮と暗黝色の粒とを与う、この粒をソーダと共に熱すれば銀粒を得べし |
31 | 輝銅鉱(Chalcocite) | 灰黒色 | 灰黒色 | 2.5〜3/ | 時には青色または緑色の曇彩を有す、他の性状は(21)に等し | |||
32 | 黒銅鉱(Tenorite)(Melaconite) | 鋼黒色 | 黒色 | 5/6 | 我が国には小坂に産す、光輝強く通常鱗状をなす | CuO | 硝酸溶液は銅の反応を生ずること(4)または(8)の如し | |
33 | クローム鉄鉱(Chromite) | 黒色、褐黒色 | 黄色、灰色又は暗褐色 | 5〜6/4.3 | 通常磁性を有す (ピッチ様の光沢、弱磁性) |
FeCr2O4 | 作用なし | 硼砂球に美緑色を生ぜしむ(クロムによる反応)吹管に熔けず |
34 | 磁鉄鉱(Magnetite) | 鉄黒色 | 黒色 | 5.5/5 | 緻密または粒状組織にして磁性を有するを以て著し | Fe3O4 | 塩酸に作用せらる、(23)に述べたる如き鉄の反応あり (塩酸には粉末なれば容易に溶け、黄溶液を与う) |
吹管にて融解せず(吹管にて辛うじて熔く) |
35 | 赤鉄鉱(Hematite) | 鉄黒色〜鋼灰色 | その他の諸性状は(23)に等し | |||||
36 | 錫石(Cassiterite) | 黒色 | その他の諸性は(6)に等し | |||||
37 | 硫マンガン鉱(Alabandite) | 亜金属光沢、褐黒色 | 泥緑色〜灰色 | 3.75/4 | 我が国には僅かに之を産するのみ | MnS | 硝酸に溶け硫化水素を生ず | 吹管にて辛うじて熔く |
38 | 水マンガン鉱(Manganite) | 鉄黒色 | 褐色 | 4.25/4.3 | 繊維状をなして稀に産す | H2Mn2O4 | 強塩酸には塩素を放ちて溶く | 吹管にて融解せず (200度に熱すれば水を放つ) |
− | 針ニッケル鉱 | 真鍮黄色 | 黒 | 3〜3.5/5.6 | 容易に融ける | |||
− | 硫砒銅鉱 | 灰黒、輝安鉱より黒味あり | 黒 | 3/3.7 | 他の金銅鉱物と伴う |