安東伊三次郎著「鉱物界之現象」より
・金属光沢を有するもの (甲) | |
鉱物 | ・明らかなる金属光沢を有せず有色の条痕を生ずるもの(乙) |
・非金属光沢を有し白色あるいは淡灰色の条痕を生ずるもの(丙) |
・条痕の灰・黒または緑色なるもの(1) | |
・条痕の褐色なるもの(2) | |
(乙)明らかなる金属光沢を有せず 有色の条痕を生ずるもの |
・条痕の赤色なるもの(3) |
・条痕の黄色なるもの(4) | |
・条痕の緑色なるもの(5) | |
・条痕の青色なるもの(6) |
(1)条痕の灰・黒または緑色なるもの
名称 | 色 | 条痕色 | 硬度/比重 | 注意 | 成分 | 酸を加えたる時の変化 | 熱したる時の変化 | |
39 | 石墨 (Graphite) | 亜金属光沢、鉄黒〜暗灰色 | 黒色〜暗灰色 | 1、砕け易し/ | 時には光輝鈍くして土状をなす 他の性質は(16)に等し |
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40 | コバルト土 (Asbolite) | 脂肪光沢あれども鈍し、帯青黒色 | 青黒色 | 1.25/3.5 | 砂礫に付着して稀に産す | Mn,Fe,Co,Cu,Ba等を含む | ||
41 | 瀝青炭 (Bituminous Coal) | 脂肪光沢、ハリ光沢、黒色 | 灰黒色、褐黒色 | 2.5、砕け易し/1.03 | 炭素(酸素及び水素を含む) | 作用なし | 燭火により黄色の炎をあげて燃ゆ | |
42 | 黒銅鉱 (Melaconite) | 非金属光沢、黒色 | 黒色 | 2.5、砕け易し | 他の諸性は(32)に等し | |||
43 | 無煙炭 (Anthracite) | 亜金属光沢又はガラス光沢、黒色 | 黒色 | 2.75/1.6 | 硬くして光沢強く、小なる貝殻状の断口を生ず | 炭素(少量の酸素水素等を含むことあり) | 炎を生ぜずして燃ゆ臭気を発せず | |
44 | 硫マンガン鉱 (Alabandite) | 亜金属光沢、褐黒色 | 泥緑色〜灰色 | 3.75/ | 他の諸性は(37)を見るべし | |||
45 | ウォルフラム鉄鉱 (Wolframite) | 亜金属光沢、黒色又は黒褐色 | 赤色、褐〜黒色 | 5/7.2 | 稀有なる鉱物なり | FeMnWO4 | 濃厚なる硫酸にて熱すれば青色を与う | 吹管にて易く熔けて磁性の球となる |
46 | 珪灰鉄鉱 (Lievrite)(Ilvaite) | 亜金属光沢、黒色 | 帯緑黒色 | 5.75/4 | 不透明にして多く柱状の結晶をなす、又繊維状の塊をなすことあり | Fe,Si,Ca等を含む | 塩酸に溶けて黄色の粘質物となる | 吹管にて熔けて磁性球となる |
47 | 角閃石 (Amphibole)(Hornblende) | ハリ光沢、黒色〜帯緑黒色 | 暗灰色〜緑灰色 | 5〜6/ | 結晶は多く細長なり、塊状の者は黒色にして通常諸方向に交わる所の多くの結晶よりなる | Mg、Ca、Fe、Alの珪酸塩 | 熔融の後は酸に侵さる | 無水なり、ピンセットあるいは炭上にて熱すれば膨張して融解す (吹管の前に熔く、殊に多くのFe及びアルカリを含むものは熔け易し) |
48 | 輝石 (Pyroxene)(Augite) | ハリ光沢、灰黒色又は緑黒色 | 暗黒色、緑灰色 | 6.5/3.2 | 結晶は多く短くして太し、塊状の者は通常短大の結晶その端を表面に突出して集合せり、又粒状の者あり | Mg、Ca、Fe、Alの珪酸塩 | 無水なり、ピンセットあるいは炭上にて熱すれば膨張して融解す | |
49 | コロンブ石 (Columbite) | 亜金属光沢、漆黒色 | 褐黒色 | 6/6 | 稀に産す | FeNb2O6 | 融解せず | |
50 | 磁鉄鉱 (Magnetite) | 亜金属光沢、ハリ光沢、黒色 | 八面体の小晶をなすことあり、多くは粒状の塊にして磁性あり、重し、他の性質は(34)に等し |
(2)条痕の褐色なるもの
51 | 褐炭 (Lignite)(Brown Coal) | 光沢は鈍し、往々脂肪光沢あり | 黒色に近き褐色 | 2.5、砕け易し/1.4 | 多少木質の組織を認むべし | 炭素(酸素及び水素を含む) | 燭火にて容易に燃ゆ | |
52 | 赤銅鉱 (Cuprite) | 褐色 | 褐赤色 | 4/ | 粘土を混ぜり往々表面に緑色を帯ぶ、他の性状は(4)に等し | |||
53 | 閃亜鉛鉱 (Sphalerite)(Zinc-blende) | 脂肪、金剛及ハリ等の光沢、黒色、褐色 | 黄色〜褐色 | 4/4 | 明らかなるへき開あり (条痕は鉱物の色よりも淡い) |
ZnS | 塩酸中にて熱すれば硫化水素を発して泡を起こす (硝酸に分解せられ硫黄を残す) |
粉末となして炭上に熱すれば硫臭あり、熱せる間は黄色にして冷ゆれば白色となるべき蒸皮をその周囲に生ず (吹管の前には爆跳して熔けず) |
54 | 褐鉄鉱 (Limonite) | ハリ、脂肪、絹糸、真珠等の光沢、褐色 | 黄褐色 | 5.5/3.7 | 通常土状または葡萄状等にして繊維組織を有す (土状のものは黄色い) |
2Fe2O3・3H2O | 塩酸によって作用せらる、その溶液に黄血塩を加うれば青色沈殿を生ず | 閉管においては容易に多くの水を出だす、炭上にては黒色磁性となる |
55 | 硬マンガン鉱 (Psilomelane) | 半金属光沢、黒色、暗鋼色 | 黒色、黒褐色 | 6.25/4 | 塊状をなす | 2MnO2・2H2O | 塩酸には塩素を放ちて溶く、この粉末を硫酸に投ずれば、赤色〜紫色を帯ぶるに至る | 融解せず (重土を含むものは炎色を緑色にし、カリを含むものは紫色にす) |
56 | 錫石 (Cassiterite) | 金剛光沢、褐色〜黒色 | 灰色〜淡褐色 | 6.5 | その他の性状は(6)に等し | |||
57 | 金紅石 (Rutile) | 金剛光沢、赤褐色〜赤色、黒色 | 淡褐色 | その他の性状は(5)に等し | 甚だよく錫石に似たれどもソーダと共に炭上に熱して錫を生ぜざるを以ってこれと区別するを得べし |
(3)条痕の赤色なるもの
名称 | 色 | 条痕色 | 硬度/比重 | 注意 | 成分 | 酸を加えたる時の変化 | 熱したる時の変化 | |
58 | 赤鉄鉱 (Hematite) | 暗赤色 | 褐赤色 | 2/ | 塊状、粉状又は緻密、やや軽し、その他の性状は(23)に等し | |||
59 | 辰砂 (Cinnabar) | 金剛光沢、朱赤色 | 鮮紅色 | 2〜2.5/3〜8(純粋なるものは8以上なり) | 粒状の塊をなす、不純なる時は土状なり、砕け易し | HgS | 硝酸又は塩酸にて変化せず、王水に溶けて硫黄を生ず (硝酸に溶く) |
炭酸ソーダと共に閉管中に熱すれば昇華して水銀の小球を生ず (開管でおだやかに熱すると水銀粒を遊離する) |
60 | 淡紅銀鉱 (Proustite) | 鮮紅色 | 鮮紅色 | その他の諸性は(2)に等し | ローソクの火で熔ける | |||
61 | 濃紅銀鉱 (Pyrargyrite) | 黒色〜深赤色 | 紫赤色 | その他の性状は(29)に等し | ||||
62 | 赤銅鉱 (Cuprite) | 金剛光沢、亜金属光沢、鮮紅色又は帯赤灰色 | 褐赤色 | 明らかなるへき開あり、しばしば粘土を混じて不純なり、その他の諸性は(4)に等し | ||||
63 | 赤鉄鉱 (Hematite) | 亜金属光沢、暗赤色、諸部に鋼灰色の部あり | 褐赤色 | その他の諸性は(23)に等し | ||||
64 | 鶏冠石 (Realgar) | 脂肪光沢、金赤色、血赤色 | 赤色 | 2/3.55 | 透明〜半透明なり | As2S2 | 硝酸には硫黄を放ちて溶く | 熱すれば白煙を生じ蒜臭を発す、炎色青、 閉管中にては赤色の蒸華を生ず ローソクの火で熔ける |
− | 紅鉛鉱 | 赤 | 橙 | 2.5〜3/5.9〜6.3 | ローソクの火ではねる |
(4)条痕の黄色なるもの
65 | 褐鉄鉱 (Limonite)(Yellow-Ocher) | 黄色 | 黄色 | 1、砕け易し/ | 通常土状にして多くの粘土を含み甚だ軽し、その他の性は(54)に等し | |||
66 | 硫黄 (Sulphur) | 脂肪又は金剛光沢、黄色、灰黄色 | 藁黄色 | 2/2、砕け易し | 硫黄を握り之を耳辺に近づくれば戞々の音を聞くことあり、これ指頭の熱のために硫黄分子が折裂する結果なり | S | 青炎を挙げて燃え硫臭を放つ (亜硫酸ガスを発し、青い焔を出して燃える) |
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67 | 鶏冠石 (Realgar) | 金赤色 | 橙黄色 | その他の諸性は(64)に等し | ||||
68 | 雄黄(石黄) (Orpiment) | 脂肪光沢、橙黄色 | 黄色 | 2/ | へき開面にては真珠光沢 | As2S3 | 苛性カリに全く溶く | 熱すれば白煙を発し蒜臭あり、閉管中にて黄色華を生ず (熱すれば赤色に変ず) (ローソクの火で融ける) |
69 | 辰砂 (Cinnabar) | 黄赤色、鮮紅色 | 黄色 | その他の諸性は(59)に等し | ||||
70 | 閃亜鉛鉱 (Sphalerite) | 淡黄色〜褐黄色 | その他の諸性は(53)に等し | |||||
71 | 菱鉄鉱 (Siderite) | ハリ〜真珠光沢、黄色、黄灰色〜黄褐色 | 淡黄色、風化せるものは褐色 | 4 | 結晶は菱面体にしてその面往々湾曲す、風化せるものは褐色又は黒色となる | FeCO3 | 粉末となし塩酸を加えて熱すれば泡を発す、黄血塩を加えれば青色沈殿を生ず | 還元炎によりて黒色磁性となる (吹管の前に熔けず) |
72 | 褐鉄鉱 (Limonite) | 褐色 | 褐黄色、藁黄色 | 5.5 | 通常繊維組織を有し土状又は葡萄状等をなす、弛き土状のものを沼鉄Bog Iron Oreという | その他の性状は(54)に等し |
(5)条痕の緑色なるもの
名称 | 色 | 条痕色 | 硬度/比重 | 注意 | 成分 | 酸を加えたる時の変化 | 熱したる時の変化 | |
73 | 緑泥石 (Chlorite) | 真珠光沢、暗緑色 | 灰緑色 | 2.5、砕け易し/2.7 | 片状組織にして風化のため土状となれる者あり、へき開明らかにして薄片は曲ぐることを得れども弾性はなし | Mg、Fe、Alの含水珪酸塩 | 硫酸にて分解す | 容易に水を出だせども、色を変ぜず |
74 | 蛇紋石 (Serpentine) | 弱き脂肪光沢、緑、黄、時には白、稀に暗色 | 灰緑色 | 通常3、砕け易し/2.6 | 無定形塊状にして不純なる者は土状なり、息をかくれば強き臭を感ず、往々石灰石を混在せり | Mgの含水珪酸塩 | 硫酸及び塩酸はこれに作用して珪酸を分離せしむ (塩酸には徐々に溶け、硫酸には速やかに溶く) |
甚だ容易に多くの水を発す、色は褐色に変ず (吹管には頗る熔け難く、単に尖端のみ少し熔くるに過ぎず、この粉末を硝酸コバルトの溶液と共に熱すれば淡赤色を生ず) |
75 | 珪孔雀石 (Chrysocolla) | 真珠光沢、脂肪光沢、緑色 | 帯青緑色、帯青白色 | 2〜4、砕け易し/2 | 無定形往々腎状、断口緻密なり、純粋なること少なくして往々他の銅鉱を伴う | 銅の含水珪酸塩 | 硝酸によりて少しく溶解す、これにアンモニアを加えれば青色と変ず (酸類には膠状の珪酸を放ちて溶く) |
容易に多くの水を出す、吹管にて融解せず |
76 | 孔雀石 (Malachite) | 真珠光沢、ハリ光沢、美緑色 | やや淡き美緑色 | 3.5/3.8 | 往々腎状をなす、緻密繊維状あるいは土状なり | CuCO3Cu(OH)2 | 硝酸に溶けて泡を発す、その液にアンモニアを加えれば青色を呈す (塩酸には盛んに泡沸して溶く) (弱酸により炭酸ガスを発生) |
吹管にて熱せば剥爆し黒色となる、容易に多くの水を出し、炎に緑色を呈せしむ (木炭上において還元炎を以って熱すれば銅を還元す) |
77 | 輝石 (Pyroxene) | 黒緑色 | 灰緑色 | 5.5 | その他の性状は(48)に等し | |||
78 | 角閃石 (Amphibole) | 黒緑色 | 灰緑色 | 5.5 | その他の性状は(47)に等し |
(6)条痕の青色なるもの
79 | 珪孔雀石 (Chrysocolla) | 青色 | 緑青色 | 2.4〜3、砕け易し | その他の性状は(75)に等し | |||
80 | 青鉛鉱 (Linarite) | 藍青色 | 淡青色 | 2.75/5.4 | 藍銅鉱に酷似せり、扁平又は繊維状の結晶をなせる者あり | PbCuSO5・H20 | 硝酸により分解して白き沈殿を生ず | 吹管にて熔けて真珠様となる |
81 | 藍鉄鉱 (Vivianite) | 藍色、黒緑色 | 淡藍色 | 2.5/2.5 | 粘土と共に出ること多し、往々美結晶あり、新鮮のものは白色又は無色のものあり、空気に触れて藍色となる (日光にあてると次第に変色する) |
3FeO,P2O5・8H2O | 酸に溶く | 閉管中に熱すれば水を失い白色となる (吹管には容易に熔け、灰黒色の磁性を帯びたる球となり、炎を青緑色にす) |
82 | 藍銅鉱 (Azurite) | ハリ光沢、紺青色 | 紺青色 | 3.75/3.7 | 緻密あるいは土状、往々板状透明のものあり、多くは小粒状の結晶をなす | 銅の含水炭酸塩 | 硝酸によりて泡を発して溶く、その溶液にアンモニアを加えれば青色を呈す (塩酸に泡沸して溶く) (弱酸により炭酸ガスを発生する) |
吹管にて熱すれば剥爆し黒色となる、多く水を出し、炎に緑色を付す |
※現在、硬度の表示は、整数またはその中間数(たとえば、5.5、3.5など)のみが使用されており、ここに挙げた端数表示は行われていません。
※、名称、化学式(成分)は、現在知られている内容と異なることがあるので、正確なデータが必要な時は最新の参考書を当たってください。
※緑色字のコメントは佐藤伝蔵著「大鉱物学」−大正7年−に拠って、SPSが適宜、補足したものです。こちらは酸の反応に限らず、アルカリに対する反応も記したものがあります。
同様に紫字のコメントは、須藤俊男執筆・伊藤貞市著「本邦鉱物図誌 第4巻」−昭和16年−に拠って補足したものです。
(本巻のみに記述のあるものは、項目を追加しました)