12.緑柱石  Aquamarine (パキスタン産)

 

 

私たち、水色の「緑柱石」は、アクアマリンと呼ばれています。

アクアマリン −パキスタン、ギルギット産 

 

産地のギルギットは、ヒマラヤの西方、カラコルム山脈南方の山懐にあり、インド独立時のごたごたに紛れてパキスタンに編入されてしまったが、もとは麗しきカシミールの領国であった。インダス河をはるか上流まで溯り、ナンガパルパットの険しい山容をすり抜け、狭い谷間をさらに奥へと入った山麓の町である。

中央アジアからインド亜大陸へ抜けるには、アフガニスタンの高原都市カブール(首都)から、要衝カイバー峠を越えるのが、昔からほぼ唯一のルートとされてきた。辺境ペシャワールの藩王国を、ガンダーラ仏教遺跡を横目に見ながら通過し、ラワルピンディーへ。そして今は栄華の跡すらない歓楽の都ラホールで一息ついてから、インドのデリーを目指すというのが、日 没するところなき、かつての大英帝国が支配したインドの交易路であった。ギルギットは、途中のラワルピンディーから川筋を300キロほど上った奥地である。そしてまた、ラワルピンディーからギルギットへの道、ギルギットからカラコルムの険しい山群とヒンズークシュ山脈の隘路を北へ抜け、星々の煌くパミール高原を越えてカシュガルヘ向かう道は、インドから中国へと続く古代のシルクロードだった。この交易路はカシュガルからタクラマカン砂漠を南北に迂回する二つの道となって、中国の都までつながっていた。(実際には、北側の道は天山南路にあたり、天山北路をあわせると三つのルートがあった。)

多分この町は、アクアマリンやガーネット等の宝石鉱物の集散地であって、ほんとうの産地は、ここからさらに険しい山脈を北に分け入り、登っていったところにあるのだろう。古来シルクロードを辿る商人たちは、トパーズやアクアマリンをギルギットのバザールで仕入れ、それを懐に、東へ西へ歩みを進めたのではないだろうか。
などと石を眺めて夢想を楽しむのである。

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