11.ゲッチェル鉱   Getchellite   (ロシア産)

 

 

Getchellite

ゲッチェライト(紅色・真珠光沢のへき開面)、石黄(黄色) 
−ロシア、キルギスタン、ハイダルカン産

 

1962年にアメリカ、ネバダ州の(鶏冠石で有名な)ゲッチェル鉱山で認識された鉱物だという。砒素と硫黄とアンチモンの塊で、何やら恐ろしげ。色も毒々しいといっていいくらいの独特の赤。だが、美しい。ヘキ開面が雲母のように輝く。微妙にスミレ色の混じったひんやりした感じの赤には、ついつい見とれてしまう。じっと見ていると、やがて神々しいといった方が当たっているような気がしてくる。鉱物の魔力であろう。
一度とりこになったなら、鉱物趣味は生涯あなたと共にある。(1999.3)


追記:Minerals and their Localities (2004)に写真付で紹介されている産地の標本。水銀-アンチモン鉱石を掘る鉱床で、ハイダルカン石の原産地である。ソビエト崩壊後に出回ったもののひとつで、かつての老舗B社でツーソン仕入品の荷解きをされている最中にお邪魔して頒けてもらった。フラットの中から最初にピックアップした、いわゆるファースト・チョイス。元のラベルに書かれた値段x3(x為替レート)を提示されたように覚えている。仕入れはラベルの半値〜1/3 程度であったろうから、いわゆる薬九層倍の理屈で、ファーストチョイス&精神安定剤とすればそんな値付け感覚なのであったろう。
ゲッチェル鉱山はオズグッド山脈の東腹、ゲッチェル断層に沿った金山だった。一帯のポトシ地域は1918年頃から鉱山開発が始まり、1934年この断層帯にも鉱脈が見つかった。その年のうちに鉱区を買ったノベル・ゲッチェルが開いたのでこの名がある。5年後にはネバダ一の産金を達成した。米国では二次大戦中、規模の小さな金山は休業を余儀なくされたが、ゲッチェル鉱山はその間も砒素を伴う鉱床を掘り続けることが認められた。1951年までに採集の容易な鉱体は採り尽くされ、以降しばらくタングステン鉱山として稼働した。その後新たな脈が見つかって再び金も掘ったが、1967年には採算割れして已んだ。鶏冠石のほか、ガルハヤ鉱やラフィット鉱の良標本でも知られた。ゲッチェル鉱はここが原産地で、1965年に報告された。鶏冠石と石黄の塊状レンズ脈に若干の石英、輝安鉱、辰砂などを伴って産し、石英床上に最初に析出した熱水起源鉱物のひとつとみられる。鮮やかな紅色を別として、物理的性質は石黄によく似る。自形単結晶はマレ。(2016.12)

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