20.十字石  Staourolite   (ロシア産)

 

 

母岩は、雲母片岩という、はがれやすい石です。

十字石 (十字双晶)−ロシア、コラ半島産

staurolite 十字石

十字石 (星形 三連貫入双晶) −ロシア、コラ半島産
(上の標本よりやや風化が進んでいる)

 

貫入双晶する鉱物の代表選手。ほとんど砂のような岩の中に十字架形をして埋もれている。釘などでひっかくと、母岩がぼろぼろこぼれる。これでは風化も早いだろう。十字石自体は、風化に強い鉱物で、ヨーロッパでは堆積土壌の中から母岩からはずれた十字架が見つかるそうだ。フランス西部のモルビハンやメキシコのピラールでは、土地に産する十字結晶が、カトリック系の住民の間で、お守りとして大切にされている。古くは、十字軍兵士が護符として身に付けていたという。

この石は完全なヘキ開を持つ。身につけていて何かの拍子に割れたりすると、それこそ不吉な感じに襲われ、十字軍遠征中の騎士といえども、そこから先へ一歩も進めなかっただろう。

別名に Fairy Stone(魔石)、Cross Stone(十字架石)、Lucky Stone(幸運の石)があり、いずれも呪術的に用いられたことを示している。またフランス、ブリタニア地方では天から降下した石とも信じられている。

cf. Crucilite /Crucite 交叉石と呼ばれる二酸化鉄を成分とする十字形の双晶がある。ラテン語の Crucis (十字)に因む。毒砂後の仮晶とみられる。


追記:コラ半島のケイヴィー・プラトーには十字石を産する地域がいくつかあるが、標本を多産しているのは半島のほぼ中央にあるセミオストリヴィー地域である。1979年から知られているが、今やロシアの標本商の十八番となっており、1990年頃から毎年のようにショーで見られる。淡灰色の微粒の雲母片岩中に数センチサイズの結晶が埋もれており、雲母を削って十字石を見目良く半分ばかり浮き彫りにしてある。単結晶、十字双晶、星形双晶など、その形態はバラエティーに富む。経験則として、双晶をなすそれぞれの結晶の大きさはほぼ等しい。なので、磔刑式の下辺が長い十字架にはならない。(2016.12)

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