23.蛍石  Fluorite   (フランス産・スイス産)

 

 

ピンク・フルオライト −フランス、シャモニー産

同じく スイス、ゴッシェン産

 

ピンク色の蛍石の産地は、わりと限られていて、ヨーロッパアルプス山中、それも高度の高いところに集中している。スイスのサンゴタール峠やゴッシェン、フランスのシャモニーなどが有名だ。あとは、南アメリカのペルーあたりか。蛍石らしい、やさしい可憐な風情があって、飽きのこない美しさをたたえている。
上の写真は、ぼけているけれど、淡い煙水晶と一緒に小さなピンクの結晶が群れているもの。スイスにはばら色のものや、もっと赤い色のものもあって、神秘的な光を放つが、それはまた違った種類の美しさである。

空気までがきらきら光っているようなアルプスの短い夏に、深い谷を渡り、険しい崖を攀じ、やっとの思いで探し当てた晶洞から、この小さな宝物は下界にもたらされる。毎年採れるわけではないから、見つかった年はワインのビンテージ・イヤーのように記憶されることになる。1975年もの、1985年もの、そして近年最大の快挙1992年の煙水晶に群生する赤い蛍石。その後、1998年、2001年にも若干の標本が出回った。が、私はやっぱり92年ものを憧れてやまぬ。


追記:フランスのシャモニーはスイスやイタリアとの国境に近く、ウィンター・スポーツのメッカといえる町である。モンブランを含むアルプスの山々は各所に美しい水晶(や煙水晶)を産するが、その採集拠点ともなっており、夏8月になると、晶洞を探して標本を集めるプロの採集人が山を崖を登ってゆく。水晶採集はすでに18世紀中頃(の博物学の流行期)にはいい稼ぎになっていたらしい。1960-70年代に鉱物蒐集が再びブームになると、彼らの活動もまた盛んになった。そして水晶に伴って産する美しいピンク蛍石が、新たな垂涎の的となった。
水晶のガマを20ケ開けると、その1ケにピンク蛍石が見い出される程度の出現確率で、なかなかにレアなものであるが、 2001年以降も折々若干数の新産標本が市場に出続けている。 1992年ビンテージの精華とされる3大標本を、私は一応全部拝むことができたと思う。 (2016.12)

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