51.ハーキマー水晶 Herkimer Quartz (USA産) |
ニューヨーク州のハーキマー一帯は、水晶の成分である珪酸分を多量に含んだ堆積岩が分布する特殊な土地で、ダイヤのように燦然と輝く水晶が採れる。
結晶の内部にごく細かい空気の粒を閉じ込めているために、普通の水晶よりもよく光るという話だ。目に見えないくらい細かい粒だというので、ほんとうかどうか見たってわからない。
表面に、天然の油膜が付着しているために、よく輝くのだという人もいる。それなら有機溶剤につければ、輝きが失せるのだろうか、と思うが、もったいなくて試す気になれない。
上の写真の水晶は、差し渡し約4センチ、下の写真は8センチ。倍になっただけで、こんなにもクラックが多くなるなんて、なんて悲しい。
cf. 水晶ギャラリー3
追記:アーカンソー産と並んで、アメリカをロック・クリスタルの国として印象づけるもう一方の雄、「ハーキマー・ダイヤモンド」。ハーキマーは18世紀にこの地方に入植したドイツ人一族の姓で、モホーク川の畔のリトル・フォールズに居を構えて住んだ。その裔ニコラスは
1777年イギリス軍の攻囲に抗してオリスカニーの激戦で倒れた英雄。以来、この土地をハーキマーという。畑地を耕すと水晶がころころ出てきたといわれる。透明な水晶は
1819年の科学誌に取り上げられ、20年代にエリー運河の工事が行われた際に夥しい数が掘り出されたことから広く世に知られた。ただ商品として扱われるようになったのはこの半世紀ほどのことである。
なにしろ掘っただけ採れる状況が続いて、米国各地で開かれる鉱物ショーでは決まって専門ブースが出る定番品、1980年代以降はパワーストーンとしても注目されるようになった。現地にはお遊びで「ダイヤモンド」を観光客に掘らせる鉱山がいくつかあり、掘ったものを買い上げてもくれる。
ふつう数ミリ〜3センチ程度のサイズだが、時に15cmに達する大型結晶にあたる。水晶が出る地層にはそれぞれ特徴があって、大型は比較的上層部に見られるそうだ。
「ハーキマー・ダイヤモンド」は苦灰岩中に生じた空洞に入っている。たいてい晶洞から外れた分離結晶として売られている。母岩付の標本もあるが、割りとったときに外れた結晶を接着し直したものがあるという(見たって分からない)。複数の結晶が積み木のように連なった芸術的標本があるが、こちらはほぼ全て接着品と思って間違いない。「ダイヤモンド」と称する由来は、輝きがきわめて強いからとも、ダイヤモンドのような「八面体」結晶だからともいう(実際は高温型の両錐形で、錐面は片側6面ずつあるので、数えれば「八面体」なわけはない。短いが柱面もある)。
一帯は太古に浅い海だった土地で、ストロマトライトなどの藻類やサンゴ類が繁殖していた。もとは石灰岩だった地層にマグネシウムを含む鉱水が浸透して苦灰岩化し、酸性水が空洞を形成した(石灰石質の部分であろうか)。それから水晶が育ち、同時に炭化した植物類を起源とする有機物質(anthraxolite/anthracolite)が沈積した。しばしば水晶に内包される。母岩付きの標本に苦灰石や方解石を伴うものがあるが、後者は水晶より後に生成したとみられる。
いくらでもあるとは言え、お値段は次第に上がっている。 1インチ(2.5センチ)サイズの結晶は、1960年代には 50セントで買えたが、今日では40ドルが相場だろうという。さはさりながら、アメリカの物価は高い。ちょっとしたレストランで夕食にステーキを食べれば、なんだかんだでそのくらい払うことになるのだから、一食我慢すればハーキマーはめでたくあなたのものである。(2018.4)
追記2:イギリスではブリストルの近郊に産する水晶が、やはりダイヤモンドそっくりの輝きを放つというので、ブリストル・ダイヤモンドと呼ばれた。