52.フラワー水晶  Quartz   (ブラジル産)

 

 

あら、ほめて下さってありがとう。

フラワー水晶 −ブラジル、リオグランデ・ド・ソル産

 

水晶が、扇形に広がって、花びらのようになったもの。ある人(標本商)が言うには、「どこにでもありそうだが、世界中でただ一個所、ブラジルのある地方でしか採れない」そうだ。(1999.3)


追記:ブラジルのリオグランデ・ド・スル(ソル)と、国境のクアライ(クアレイム)川を挟んだウルグアイ北部のアーティガスとに跨る地域は、紫水晶の大産地である。他の産地の追随をまったく許さない量・数のジオードを陸続と出している。なにしろ玄武岩がかぶった地層に水平にトンネルを掘っていくと、どかんぼこん出てくるらしい。深緑色の鍾乳状カルセドニーの内面を濃い紫水晶のトゲのような頭部がびっしりと縁どった、鉱物愛好家なら誰でも知っている、あのジオードである。これを置かない博物館はない、と思われるくらいポピュラーな、あのアメシストである。
二次大戦が終わって間もない頃にイダー・オバーシュタインから来たドイツ人がブラジル側で採集を始めて、それ以来の定番商品だという。日本では昭和の高度経済成長期に市場に入ってきた。百貨店の外商も扱ったし、そのスジの方々のシノギにもなった。そのせいか鉱物コレクターの定番品というより、不動産屋さんやお医者さんや会社の社長さんや、つまりはお金持ちの家の応接間にデコラティブとして飾ってあるイメージがある。1991年の5月に、 1.3mx1.9m サイズの、子供が中にすっぽり入れるジオードが見つかったが、すぐに日本人バイヤーが 10万ドルで買っていった。バブルは弾けていたが日本の鼻息は荒く、海外の標本商さんも虎視眈眈と日本市場を狙っていた。
それはともかく、そんな産地から出てくる標本である。「世界でただ一個所」というのが仮に間違いでないにせよ、その一個所では「ジャガイモのように収穫される」、とつけ加えた方がいいのかもしれない。掘ったイモ イジルナ。 (2016.12)

追記2:この種の花弁状ないしイソギンチャク状の産状は、割れ目を伝って岩の表面に開いた孔から粘土の高い鉱液が徐々に浸み出し広がって、玉髄や水晶をなすと言われている。リオ・グランデ・ド・スール州のイライ鉱山に産するものが有名で、飯田孝一氏は、「崖の上に天女の羽衣がフワリと垂れかかっている」、「柔らかなイメージはまるで『羽二重餅』」などと、羽衣のイメージと語感から連想を膨らまされている。母岩付き標本をお持ちの方ならではの(そして日本人ならではの)感想だ。
ちなみに花弁の先端にあたりは母岩から浮いた状態で成長すると思われ、私の手元の標本は表面だけでなく裏側も結晶面が出ている。両錐面を持つ結晶形もみられる。おそらくかなり粘土の高い珪酸溶液から、沈着(析出)した石英をオーバーライドないしオーバーハングしつつ、カリフラワー的にもこもこ拡散成長してゆくものと思しい。(2021.9.26)

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