58.蛍石  Fluorite   (中国産)

 

 

中国4000年の歴史? ふっ、私に比べたら、赤子みたいなものさ。

螢石 −中国、湖南省 チェンヂョウ (chenzhou)産

 

鉱物の色は、どういうわけか、その国の風情を帯びるといわれる。

太陽の乏しい昏い北極圏で採れる石の多くは、くすんだ色をしており、赤でさえ暖かみがない。オーロラを思わせる曹灰長石のような例外はあるとしても。アフリカの石は砂漠と緑の色。フランスの石は明るく鮮やかで、ドイツにくると同じ石が奇妙に謹厳さを粧おう。スイスアルプスの石は清純でキラキラと光り、アメリカの螢石はさっぱりとして合理的な色、イーハトーボの石は銀河のほとりの天の川のように白い、といった具合で、まあ半分は受け止める側の先入観が混ざっている。とはいえ、指摘されると、いかにもそんな気がしてくるのは、私たちが、いまでもシャーマニズムの感性を持っていて、万物、とりわけ神秘的要素の強い鉱物という物質に、無意識のうちに類感呪術を感じるからかもしれない。

写真の螢石。私はいかにも中国らしい色だと思わずにいられないのだが、皆さんはどう思われるだろう?

ヴィトゲンシュタインなら、「その説明は論理ではない。神話の魅力である」、と斬り捨てるのだろうが。


追記:今となってはあんまり珍しくもない(こらこら…)中国湖南省産の蛍石だが、90年代半ばに市場にどっと溢れ出した頃は、ちまちまサイズの他国産を尻目に圧倒的にでかく、安く、それはそれは素晴らしい雀躍感があったのであります。
この標本はツーソンに出張ってきた中国人業者から購ったもの。ラベルにただ chenzhou と県名だけがあったが、おそらく Xianghualing (香花嶺)鉱山か、その南にある Xianghuapu 鉱山産と思われる。あたりは36平方キロにわたって金属鉱床が地表に現れた大鉱山地帯で、10世紀には採掘が始まっていた。Xianghualing 山の標高 1,594m 地点にグライゼン鉱床があって錫石が採掘された。ここに出る蛍石は透明な緑色で、ふつう六面体に結晶しており、サイズは12センチに達するものがある。無尽蔵とばかりに標本が出回って、2000年代も勢いは衰えなかった。
ただ中にはオイル含浸処理や放射線処理をしたものがあるそうなので要注意(これはどの中国産蛍石でも言えること)。放射線照射で緑色の濃くなった蛍石は、少し歳月が経つと汚れた感じの緑色に変わってしまうという。幸い本品は今も爽やかな淡い海緑色を保っている。
南の Xianghuapu 鉱山は、50年代に灰重石のスカルン鉱床が見つかり、以来、錫、タングステン、鉛、亜鉛などの鉱石を掘っている。やはり六面体の緑色蛍石結晶を出すが、茶色がかったり青色や明るい緑色の内核構造が観察される。(2018.5)

最近はXianghualing (香花嶺)から Liroconite の標本が出ている。驚く。 (2023.7.5)

鉱物たちの庭 ホームへ