88.リロコナイト Liroconite   (イギリス産)

 

 

 

リロコナイト−イギリス、ホイルガーランド産

 

鉱物を集めている人なら、誰でもひとつは、本当に苦労して手に入れた大切な標本があるだろう。どんなにちっぽけで、見栄えのしないものだとしても、自分にとって、この上なく愛しい石があるだろう。

私にとって、リロコナイトは、その最たるものだ。

イギリスの歴史的な鉱山地帯コーンワルで採れる、とてもとても珍しい鉱物で、その昔、鉱物図鑑に載った麗しい横顔を見てしより、麻呂はそなたに夢中だったのじゃ。とうとう地元の鉱物商を仲人に輿入れとなったとき、余は天に上る心地とはこのことかと思うたものじゃ。顕微鏡サイズの小さな標本だが、手にとると今でも心がふるふる震える。あれから幾年、蜜月は続く。

結晶の下に敷かれた淡白緑色のベルベットは、ストラシミライトという。やはりとても珍しい銅の砒酸塩鉱物なのじゃ。

cf.イギリス自然史博物館の標本
  ヨアネウムの標本

補記:リロコナイトがコーンウォールで発見されたのは 1780年代から90年代にかけてと目される。フィリップ・ラシュレイのコレクションを紹介した 'Specimens of British Minerals'(1797/1802) に素晴らしい図版が載っており、オリーブ銅鉱の結晶上に着床した本鉱を「空色の銅鉱で、4面ピラミッドが合わさった形状の幾分か透明な完全結晶。草緑色の針状銅鉱の上に載る」と記述している。1801年、ブルノンは本鉱を「八面体形状の銅の砒酸塩」と記した。以来いくつかの名前が与えられ、1803年、ウェルナーは新鉱物として「Linsenerz」 (lenses ore)と命名した。その結晶は疑似正方形ないし平たくひずんだピラミッド状だが、レンズのような特徴的な(まるみのある縁を伴って曲がる)楕円状を呈することが多かったからである。国際名 Liroconite はギリシャ語の Liros (淡い)と Konia (粉)に因み、1825年に与えられた。粉末状で産するもの、あるいは条痕色が、結晶では普通にみられる濃く鮮やかな青や緑色よりはるかに淡い色をしているからだという。別名のCouphochlorite (淡緑石)は ギリシャ語のkouphos (淡い)+chlorに拠る同様の名。また Lirokon、Lirokon-Malachite、 Lens copper、 Chalcophasit とも呼ばれた。和名はリロコン銅鉱がある。レンズ銅鉱も面白いと思うが…
世に知られる最大の結晶はラシュレイ・コレクションのひとつで、3.5センチあった。今日トルーロのコンウォール郡博物館で見ることができる。

補記2:最近は中国湖南省Chenzhou, Linwu, Xianghualing (郴州市,临武县 香花嶺香花嶺)産(錫ほか複合金属鉱床)の標本も出回っている。(2023.7.5) cf. No.58

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