787.そろばん玉石 Chalcedony (日本産)

 

 

そろばん玉石

算盤玉石 -京都府久美浜町神崎産
(円錐面に放射状に広がる条線は、「鋳型」となった空隙の冷却・収縮を反映したものか) 
そろばん玉石(玉髄) −熊本県人吉市東大塚町桑木津留産
(「貝がら石」と呼ばれたものか?)

 

そろばん玉石は、少し古めの日本の鉱物書にはたいてい名前が出ている。算盤の珠のような丈の低い両円錐形の石で、その形の鋳型となる空隙をもった(風化しやすい)石の中に珪酸質の鉱物が充填されて出来たと考えられている。

木下鉱石図鑑(1967)には、西洋ではむかしサンゴの化石として記載されたが、事実は火成岩のノジュールの中央を貫いた割れ目に沈殿した、玉髄あるいはたんぱく石だ、と載っている。
益富「鉱物」(1974/1990)は、その成因として、流紋岩質マグマの地表への噴出〜上昇に伴う減圧で生じた気孔への鉱液の流入〜円盤状放射針状の珪長質鉱物が晶出して形成された鋳型〜さらにその鋳型への珪酸鉱物の充填、というプロセスを想定している。また産地が日本海に面した府県に偏っていることを指摘している。原色岩石図鑑に福島県(宝坂)、新潟県(笹目)、石川県(松岡)、京都府(久美浜)、兵庫県(江野)を挙げる。
一方、藤原「日本の鉱物」(1994) は画像と同じ久美浜産の標本を載せ(流紋岩の風化した砂礫土の中に1〜5cm大のものが出る)、そろばん玉状の空隙がどうやって出来たかは疑問である、と述べている。

算盤の技芸は別名「珠算」と言った。木下鉱物和名辞典は「算盤珠石」の字を当てている。記述を引用すると、『そろばん珠の如き形せる玉髄。一般に鰓(イナ)の臍の如き富士と逆富士を合わせた形で多くは一方凹み、一方凸。頂上より周に向かい放射線がある。上下一般に山は低いが熊本産は紡錘形又二枚貝状に一方に向かう。中空の時は水晶、方解石、沸石等結晶する。玉髄最も多く、蛋白石のものもある。之の雌型は「擂鉢石」という。各地に異名あり、「ソロバン石」(丹後熊野郡字浦川日光寺沢)、「キクメイシ」(羽前西置賜郡小国 黝色を「テツ」赤色を「ドウ」という)、「ツブ石」または「胡椒石」(同村山郡本沢)、「カイガライシ」(熊本藍田村)、中国にては「算珠石」』。

昔は各地でなじみの石だったようだ。今時の鉱物書にあまり名を見ないのは、我々日本人の多くがすでにソロバンという存在自体をうまくイメージ出来なくなったからでもあろうか(実務で使っている人もあるに違いないが)。なら、今の若い人は何と呼ぶのだろう。

余談だが、ドラゴンクエスト4(1990)に登場した商人トルネコの武器に、「せいぎのそろばん」がある。どんなものだか不明だが。

補記:熊本県人吉市の桑木津留(くわのきづる)は、球顆流紋岩の母岩中に石英や玉髄の球顆が入った白っぽい粘土質の崖が露出して、古くから水石などの飾り石に用いられたという。大きな球の内部は空洞で、小さな水晶や方解石の結晶が入っている。ここの水晶は三角柱に近い形をしている。
球顆の内側を玉髄が埋めて、いわゆるそろばん玉石をなすものがあり、かつては数cm大のものが出たことが、「日本鉱物誌」3版(1947)に記されている。「鉱物採集の旅 九州南部編」(1977)は「ソロバン玉というよりトンガリ帽子を上限にくっつけたような、高さの高いものです。おまけに両はしがまがって、C字形になったりS字形になるなどの奇妙なかっこうがあり、…」と描写している。

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