808.エランベルジェライト Ellenbergerite (イタリア産) |
ドーラ・マイラの超高圧変成岩を調査したショパンは 1984年に、それまで地球科学界が漠然と信じていた仮説
-地殻物質が地下数十kmを越えて沈み込んだり再び戻ってきたりすることはない-
に大きな挑戦をつきつける研究を発表したが、その際に重要な例証となったのはパイロープと、パイロープに封じ込まれたために結晶構造を保っていた超高圧鉱物のコース石だった。
本鉱はその際にショパンが発見した新種の鉱物で、西アルプスの地質を研究したフランソワーズ・エランベルジェに因んで、1986年に記載された。紫〜淡菫色〜無色の、多色性の強い希産種で、ふつうは1mm程度だが、大きなものは10mmの柱状結晶(断面は六角形)が知られている。燐分に富むと深緑色を呈し、別種の燐エランベルジェライトとなる。
組成式は Minerals and their Localities によると、(Mg,Ti,Zr)Mg3Al3H[(OH)3|(SiO3OH)|(SiO4)3]
と表記される。
和名は英語読みのエレンバーガー石で通っているが、Ellenberger はおそらくドイツ姓のエーレンベルガーで、しかしフランスの人なのでエランベルジェと発音するのではないかと思う。産地を巡検して標本を採集された奥山康子氏はエレンベルジェライトと表記されているが、ここでは一応エランベルジェライトとしておく。ちなみに奥山氏(青いガーネットの秘密)によると、パイロープに含まれるコース石は薄片にして初めてその姿がわかるという。地上環境では不安定な鉱物であるから、封じ込めたとはいえ周りから石英に変化していることが多い。その変化によってわずかに膨張して、パイロープに放射状の亀裂を入れているそうだ。この標本は小さなカケラに過ぎないが、どこかにコース石が含まれているかもしれないと思うと夢が膨らむ。
産地は今日では保護されているという。学者さんは好き放題に採集してきたのに、なんで後からくる一般の人は許されないのか。と、言いたくなることは世界中にいくらでもある。それはただそうなのであって、是非もない。我々は学者さんが採集した標本を黙って買うのである。