809.チタン鉄鉱 Ilmenite (パキスタン産)

 

 

Ilmenite

(イルメナイト(黒色ブロック状)、微斜長石(白色)、リーベック閃石(黒色針状、水晶中)

Ilmenite

チタン鉄鉱 -パキスタン、北西辺境州、ザギ山地産

 

イルメナイト/チタン鉄鉱は FeTiO3 の組成を持つ六方晶系の酸化鉱物で、チタンのもっとも重要な資源鉱石である(産出が多い)。ロシアのイルメニ山地に出たものが 1827年に報告されてその名を得た(補記1)。 Titanic Iron Ore (チタン性・鉄・鉱石)と称され、和名もこれに従っている。鉄鉱石としてはチタンが邪魔で、かつてはあまり価値がないと考えられていたが、20世紀後半、金属チタンやチタン顔料(チタニウム・ホワイト)の需要が伸長したため認識が改められた。

ヘマタイト/赤鉄鉱 Fe2O3の類縁鉱物と考えることが出来、鉄の半分がチタンに交代したものに相当する。結晶構造はヘマタイトやルビーに類似しているが、酸素の間に金属が入る位置は分かれており、ある方向で切ると鉄が入る層とチタンが入る層とが酸素層を挟んで交互に現れるような関係である。高温環境下ではヘマタイトと連続した固溶体をなすが、地上環境では分離しているとみられる。構造中に取り込まれるFe2O3 の量は(常温常圧下に)最大 6% とされ(亜種 menaccanite など)、これを越える鉱石はチタン鉄鉱に赤鉄鉱や磁鉄鉱が混じたもの(あるいは過剰固溶したもの)と解釈される(補記2)。磁性のないものと弱い磁性を示すものとがあり、後者はなんらかの形で過剰のFe2O3 を含むか、極微サイズの磁鉄鉱を含むものと考えられる。「熱すると強磁性になる」と述べた本がある。

鉄分はマグネシウムまたはマンガンと置換可能で、これらの元素が鉄分に優越すると、ゲーキーライト geikielite(スリランカ産が有名)、パイロファナイト pyrophanite (スウェーデンやブラジル産:補記3)となる。ただし地上起源の大半のチタン鉄鉱はこれらをほとんど含まない。キンバーライト中に出るものは例外で、相当量のマグネシウムを含むことがある(cf.No.806)。月で採取された高チタン性(10%以上)の玄武岩には本鉱が入っており、これもマグネシウムを含んだものが多い。

チタン鉄鉱はふつう塊状や砂状で大量に産出するが、自形結晶はどちらかといえば珍しい。結晶形は分厚い六角板状、菱面体状などで、鉄の薔薇(赤鉄鉱)に似た花弁状集合結晶をなすこともある。黒色〜黒褐色(赤鉄鉱より暗い)で、条痕も同じ色。脆い。へき開はなく、破面は貝殻状断口。
火成岩中に広く分布しており、風化した火成岩から分離されて濃集した黒色砂は鉱石資源として有用である。いわゆる砂鉄の一種で、磁鉄鉱(やルチル、ジルコン)と密接に共存する。磁鉄鉱(強磁性)とは磁性の程度で、赤鉄鉱とは条痕色で区別出来るとモノの本にはあるが、砂状のものはまあムリだろうと思う。また結晶標本を条痕板で擦るコレクターはいないと思う。ちなみにボヘミアの Iserwiese 産の本鉱は強い光沢があり磁鉄鉱と同じ性質(磁性)を示すため、Iserine, Iserite (アイセリン)と呼んで区別された(組成はかなり変動する)
漂砂鉱床中のチタン砂(本鉱や灰チタン石、くさび石など)はしばしば外縁部の色が明るくなっている。本来、風化に強い鉱物であるが、やはり風化を免れず鉄分が抜けて二酸化チタン(ルチル鋭錐石)に変化したものである(磁鉄鉱に比べると砂鉄として留まりにくい)。「リューコクシン(白チタン石/ルコクシン) leucoxene」という。ノドによさそうな名だ。

標本はパキスタンの北西辺境州ワルサック地方にあるザギ(ゼギ)山地に出たもの(山地というより丘陵のような観がある)。ここは2000年代に入って、希元素鉱物を目当てに地元民らが掘り崩すようになったヤマで、バストネス石、パリス石、ゼノタイム、ジェントヘルビン等の世界級の美晶を出す。同時期に本鉱や水晶の標本も出回るようになった。光輝に富んだ初生・自形結晶標本で、なかなかいいものだと思う。

補記1:Menacanite, Iserin, Crichtonite, Titaneisen, Mohsite, Kibdelophane, Ilmenite などはそれぞれ当初新種と考えられたが、やがて結晶の研究が進んだ Ilmenite の下に亜種として統合された。19世紀当時の優れた化学分析においても、これらチタン鉄鉱の組成は一定していなかったが、後に顕微鏡による研究が進むと単結晶中にチタン鉄鉱と赤鉄鉱とが分かれて共存していることに気づかれた。この種の混合物も、(高温)生成時には固溶体をなしていたと考えられている。組成中の鉄は少なくとも常温では2価、チタンは4価のイオンとしてふるまう。なおチタン鉄鉱とルチルの間には固溶体関係は存在しない。

補記2:最大6%とは、スイス、ビンネンタール産のものが均質な結晶で6.03%のFe2O3 を含む、という知見から導かれた事例的なもの。完全な固溶体関係がある高温環境からの急冷によって生じたチタン鉄鉱はより高濃度の(過剰の)Fe2O3 を含みうるが、変成帯にあるこの産地のものは構造に無理なくFe2O3 を取り込んでいると考えられる。なお、漂砂鉱床の風化したチタン鉄鉱に含まれる Fe2O3 はしばしばアモルファス(非晶質)で、構造は不明である(赤鉄鉱かどうか分からない)。

補記3:Pyrophanite  は 1890年にハンベルグがスウェーデン、バームランドのハルスティヒ鉱山に発見し、炎のように輝く深血赤色をしていたことに因んで命名したもの。