873.ペンタゴン石 Pentagonite (インド産)

 

 

 

pentagonite ペンタゴン石

ペンタゴン石 −インド、マハラシュトラ州プネー、(prob.ロナバラ採石場)産

Pentagonite

「双晶していればペンタゴン石」、と考えられる

Pentagonite

ペンタゴン石 長柱状の双晶 −インド、マハラシュトラ州プネー、ワゴーリ産

同上 先端部を柱軸方向に見る 五稜星形の双晶
上側の稜はまだ成長しておらず、左右の結晶に挟まれた窪み(空間)となっている。

同上 根本の断面を柱軸方向に見る 五稜星形の双晶
全周が双晶で埋まっている。単結晶の断面は菱形であることが分かる。

 

 

1960年の秋、アイダホ州のペリゴー夫妻はオレゴン州オワイヒー・ダム近くを通る道路の新しい切通しで、ある一つの巨岩を被膜する青色の鉱物を見つけた。翌春これを採集してUSNMのP.デゾーテル博士に送ったところ、おそらく未知の鉱物だろうとのコメントを得た。
1963年の2月、オレゴン州のジョン・コウルスは、同州ゴブル近くの採石場でこれに似た青い鉱物を見つけた。オワイヒーから約350km北西に離れた場所である。同年の秋、地質調査局に提供された標本が詳しく調べられ、新鉱物であることが明らかになった。その後、両産地の標本を比較すると同じ鉱物であった。 Ca(VO)(Si4O10)・4H2O の組成から構成元素名を順に綴って ca-van-site カ・バン・サイトと命名された(1967年)。従来知られなかったタイプの層状珪酸構造を持っていた。
結晶構造を研究中、オワイヒー・ダム産の小さな標本に、明らかに双晶していると分かる結晶群が見られた。カバンサイトと同成分で外観も物性も似るが、構造が異なっていた。やはり層状の珪酸構造だが別のタイプの鎖状環を形成する。双晶形の特徴から pentagonite  (pen-ta-gon-ite:ペンタゴン・アイト:五角石の意)と命名された(1971年)。和名はそれぞれカバンシ石とペンタゴン石が一般的。

オワイヒーの産地はハイウェイ路面から約30m ほど控えた高さ約6m の切通しで、2-3mmの厚さのカバンシ石やペンタゴン石に覆われていたという。茶色のタフ(凝灰岩)中の亀裂・空隙を方解石や沸石類(輝沸石、束沸石、方沸石、魚眼石)と共に埋める産状。
ペンタゴン石は(当時)オワイヒーからのみ見出され、産状や共産鉱物はカバンシ石と同じだが晶出はカバンシ石より後からとみられた(より低温の環境)。生成順序は、濃黄色の方解石→カバンシ石→ペンタゴン石と輝沸石→束沸石→ペンタゴン石→方解石→方沸石、という。
ゴブルではカバンシ石は玄武岩や赤色のタフ中の晶洞や方解石の脈中に産した。生成順序は、方解石→輝沸石→トムソン沸石→カバンシ石→方解石、という。

カバンシ石とペンタゴン石の単結晶は光学特性が異なり、いずれも柱面に平行に二軸性を持つが、前者は正、後者は負。分散が大きくディスパージョンを示す。いずれも直方晶系。c 軸に平行に柱面が伸びて、頭部に庇面を持つ。庇面はカバンシ石は d{101}、ペンタゴン石は u{201} とc{001}面。 ペンタゴン石はほぼ常に柱面(m{110}面)を境界面として双晶している。柱面に垂直な断面は菱形で、狭角は 72.7度。そのため5回双晶を繰り返すとほぼ全周をカバーして五稜星形の柱状結晶となる。
カバンシ石の柱面に垂直な断面も同様の菱形で、狭角は 71.1度。同じように双晶すれば、やはり5回の繰り返しでほぼ全周をカバーするはずだが、実際にそういうことは起こらない。


両者の主構造をなす珪酸は SiO4四面体の4つの頂点のうち3つが隣接する四面体と共有されており、 (SiO3)n の繰り返しで層状をなす。珪酸層構造は柱面に平行で、カバンシ石では SiO3 (上図の大3角形)4ケでリング状になる部分と8ケでリング状になる部分とが交互に現れる(4-8 fold rings)。一方ペンタゴン石では6ケでリング状になる (6 fold rings)。両者の構造はまったく異なるので、ペンタゴン石に置換されたカバンシ石の仮晶といったものはありえない。
ペンタゴン石では(SiO3)n の層面を作る酸素(O)が、いずれも m{110}面上に配される。そのため、この面での双晶は単結晶の構造に歪みをきたさないので容易に生じる、と考えられている。
一方、カバンシ石では層面を作る酸素は、双晶面(対称面)から離れて配される。双晶すると電荷バランスが乱れて構造を歪めることになるのでまず起こらない、と考えられている。
つまり、「(柱面で)双晶していればペンタゴン石」という観方はかなりの精度で真と考えられる。

画像はインド産のペンタゴン石(原産地の標本は No.448 に)。
上の標本はイガ栗状(ウニ状)に結晶が放射集合したもので、このテのものはペンタゴン石と標識されることが多い。カバンシ石と標識される標本はイガ一本一本の独立性が低く、放射球状に集合しているのがならい。実際はイガ栗状だからペンタゴン石、とは必ずしも言えない(カバンシ石の場合もあるらしい)のだが、上述の通り、双晶が見つかればペンタゴン石の可能性が高い。
束沸石がついており、「インド産のペンタゴン石は束沸石と共産しない」とMR誌のインド特集号(34-1)にあった経験則には一致しないが、これはワゴリ産のお話で、同じインドでもロナバラ採石場のものは束沸石を伴うという(MR38-3)。この標本はおそらくロナバラ産なのだろう。cf. No.874

下の標本は 4cm 長さの柱状結晶(分離品)。カバンシ石やペンタゴン石の結晶サイズとしてはかなり大きめである。柱面に垂直な断面が五稜星形を示す。サイズが大きいのは理想的な双晶形態で成長したためだろうか。双晶しても柱の径が太く広がるわけでなく、ただ柱面が長くなるだけなのがフシギな気がする。イガ栗状との関連を考えると、双晶しない単結晶が均等に伸びて球状をなす中から、双晶した結晶はより長く伸びて球から突き出してゆく。そのためペンタゴン石はイガ栗状になったり、一本だけ異常に長く伸びる結晶があったりする、ということかもしれない。
インド産のペンタゴン石が出回り始めた頃、インドの業者さんは、五稜星形双晶を示すかどうか、ちっとも気にしていなかったフシがある。一方、日本の標本商さんは、必ず見つかるはずと気合を入れてチェックしまくり、発見した標本をプレミア価格で販売されたところもあった(手間がかかっているから当然)。それから何年も経ったが、五稜星形を入手しようと思うなら、頼るべきはやはり日本の業者さんと思われる。

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