874.カバンシ石 Cavansite (インド産)

 

 

Cavansite

カバンシ石 −インド、プネー地方産 (prob. ロナバラ採石場)

Pentagonite

カバンシ石(ペンタゴン石?) −インド、プネー地方産 (prob. ロナバラ採石場)

カバンシ石 −インド、プネー地方産 (prob. ロナバラ採石場)

 

米国オレゴン州産のカバンシ石とペンタゴン石との発見譚を No.873に、インド産のカバンシ石が出回り始めた経緯をフラグメンツ かけらの3に、それぞれ記した。
カバンシ石の標本といえば、長らくプネー市東郊外にあるワゴーリの採石場が事実上の一枚看板で、ひとめ人目を惹く美しい結晶が、(小さいものは)信じられないくらい安価で大量に出回った。鉱物標本に縁のなさそうな一般の観光土産店にも水晶や黄鉄鉱やと並んで置いてあったりして、レアものと知らず気安く入手された方も多かっただろうと思う。あとでびっくり玉手箱。
1999年頃からペンタゴン石も出したが、こちらは流通量がずっと少なく、鉱物愛好家御用達の、おそらく愛好家しか知らないレア標本である。
ワゴーリにはかつて 40ケ所以上の採石場があったが、カバンシ石を出したのはそのうち 4ケ所。現在では都市化が進んで採石場数はがっくり減っているという。

「カバンシ石・イコール・ワゴーリ」の時代は 15年ほど続き、その後、2003年初に新たな産地が現れた。ガーツ山脈の東端、ムンバイとプネー市とのほぼ中間に位置するロナバラ(ロナブラ)市東郊外の玄武岩採石場である。ここは従来、中沸石緑色(フッ素)魚眼石の美晶標本が採れることで知られていた。後者の緑色は微量に含有されるバナジウムによる呈色と言われる。この年、採石場の下部に多数の晶洞を持った安山岩が露出して、調べてみると希産バナジウム鉱物であるカバンシ石とペンタゴン石とが入っていたのだった。
晶洞の内側はたいてい石英や輝沸石に縁取られ、その上に(後に)両者が晶出していた。時にモルデン沸石や束沸石、方解石などを伴う。生成順は、輝沸石(1期)→カバンシ石・ペンタゴン石・方解石→石英(水晶)→束沸石→輝沸石(2期)→モルデン沸石という。

MR 38-3(2007年)の産地紹介記事には、No.873の上の標本に酷似したペンタゴン石標本が示されている。輝沸石の上にイガ栗状のペンタゴン石が載り、またやや大きめの束沸石がやはり輝沸石上に載ったものである。「ペンタゴン石は束沸石を伴わない」というワゴーリ産の経験則はロナバラ産にはあてはまらないようで(束沸石は後からの晶出になるので必ず伴うわけではないが)、またワゴーリ産に典型的なモルデン沸石上にペンタゴン石が晶出したタイプもこちらにはないということになろう。
一方、束沸石上にカバンシ石が晶出したワゴーリ産でお馴染みのタイプも、やはりロナバラ産にはないと考えられる。絶対と言わないにしても目安になる。

ここに紹介する3点とNo.873の上の標本とは同じ時期に入手したもので、プネー地方産であるが、ワゴーリ産かロナバラ産かは不明。私としては(見かけから判断して)おそらくロナバラ産だろうと思っている。
上の標本はリボン状(ボウ・タイ状)に結晶を束ねた形の、典型的な産状のカバンシ石。よく観察すると平行に連晶するようにみえる柱状結晶でも完全に平行ということはなく、必ず斜めにずれて連なっていることが分かる。その結果が特徴的な集合形をもたらすのだろう。下の標本も同じで、無数の柱状結晶が縦に並んで見える右側の部分でも、実際は扇を開き始める時のようにやや上方に向かって広がっている。
中の標本はイガ栗状の結晶集合。カバンシ石として入手したけれど、私としてはペンタゴン石だろうと思っている。

ロナバラ産が加わってさらに15年経ったが、その後、新たな産地は報告されていないようである。

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