908.苦土フェリエ沸石 Ferrierite-Mg (ハンガリー産) |
沸石構造は今日 250種ほどが知られるが、そのうち 200種ほどは合成物としてのみ得られている(天然の沸石種は
50種以上と言われるが、IMAの細分した区分を採用するとその倍ほどの種が数えられる)。一般的な傾向を言うと、Si/Al
比の小さな(アルミ成分が多い)沸石は親水性が強く、Si/Al比の大きなもの(人工的に作られる)は疎水性を示す。カチオンのサイズが小さいものほど、また価数が大きなものほど静電引力が強くなり、極性分子を多く吸着する。カチオンの種類は入れ替えが可能である。
人造の沸石は構造(細孔サイズ)や Si/Al比、カチオンの選択によって、望ましい性質を引き出している。工業的に利用される構造は約10種ほどあり、中に天然物の名をとってモルデナイト構造、フェリエライト構造等と呼ばれるものがある。
水分を飛ばした沸石は強力な水分除去剤となり、シリカゲルよりはるかに効果が高い。高温でも利用出来る。有機溶媒や油類の脱水、湿度調整に用いられる。
カチオンを交代する性質(イオン交換能)によって、例えば水溶液中のカルシウムやマグネシウムイオンと、沸石のナトリウム成分とを入れ替えて水質を軟化させることが出来る。紅茶が美味くなる。アンモニアや有害重金属、放射能汚染水中のセシウムを吸着除去するといった利用法もある。銅で置換した沸石は窒素酸化物を吸着する性質があり、NOx浄化触媒が研究されている。
カチオンを水素やアンモニアイオンに置換した沸石は固体酸触媒機能を発現する。選択的に籠構造に侵入した有機物質の化学反応がこの内部で促進されるのである。石油精製で利用されるFCC触媒はその代表。
フェリエライト/フェリエ沸石はカナダのブリティッシュ・コロンビア州カムループス湖の北岸で発見された。鉄道を切り通した玄武岩の露頭で、カルセドニーの詰まった脈中に薄刃状の結晶が放射球状に集合していた。カナダ地質調査局のW.F.フェリエール(1865–1950)が採集し、1918年に彼に因んで命名された。
組成[Mg2(K,Na)2Ca0.5](Si29Al7)O72·18H2O。Si/Al
比の大きい(珪素分に富む)沸石で、希産種。成分はたいていマグネシウムが優越するが、ワシントン州のアルトゥーナからナトリウム優越種が、カリフォルニア州サンタモニカ山地からカリウム優越種が報告された。1997年の勧告以降、それぞれ
Ferrierite-Mg, Ferrierite-Na, Ferrierite-K と標識される。-Mg 種は直方晶系、Mgの乏しいものは単斜晶系の対称性を示すが、基本的な構造は同じ。細孔の大きさは
[001] に 4.2x5.4Å、[010]に 3.5x4.8Å(目安)。
和名はかつて苦土沸石と呼ばれたが、今日では(苦土)フェリエ沸石が普通。