1002.水晶 傾軸十字双晶3 Quartz Crossing twins (日本産)

 

 

水晶 傾軸十字双晶
2つのL字の組み合わせと観ると
一方のL字のみが肥大している(凹入角効果?)
母岩付だが、どこが成長の起点となったのやら…
−群馬県南牧村三ツ岩岳産

偏った肥大のない(少ない)十字形のもの

十字に交差した両錐形の連晶(複晶)

微小結晶の内部に、さらにミクロサイズの
複晶が封入されてみえるもの

錐面が分裂、ないし階段状に展開した形の日本式双晶
内部にミクロサイズの複晶が封入されてみえる

水晶 V字型、y字(ト字)型、x字(十字)型などの日本式双晶 
いずれもミリサイズの分離結晶
−群馬県南牧村三ツ岩岳産

 

群馬県甘楽郡南牧村(なんもくむら)は山間の僻村で、高齢化率日本一、村民の平均年齢 68.9歳(2022年)という。三ツ岩岳は数多ある山峰のひとつで、南牧川の支流、大仁田川の奥、大仁田ダムの北西に聳え、その名の通り3つの岩峰(中岩、北岩、三角点峰)が並んで山頂をなす。標高 1,032m。ダムの堤下から登山ルートがあって、高低差 580mを衝いて山頂に立つと、西上州の峰々を一望に眺めることが出来る。道程の景色は春はツツジ、秋は紅葉が美しく、往復2時間半ほどの手頃な山行を楽しめるそうだ。

三ツ岩岳の名は、日本の鉱物採集家の間では 2000年代に風変りな形の水晶を出したことで一躍知られるようになった。砂川博士の「水晶・瑪瑙・オパールビジュアルガイド」(2009)に本産地の十字形の日本式双晶標本や、「多重日本式双晶」の結晶図が紹介されている。

私がアクセス出来た範囲の情報では、この地域には江戸時代に金を掘ったという場所や、明治期にアンチモンを掘った場所があると伝わり、実際、南牧村六車(むくるま)の赤岩の橋あたりから三ツ岩岳に向かって沢(大水澤)を上っていくと、大水鉱山と呼ばれる旧坑が残っていて、輝安鉱の標本を得ることが出来る。
90年頃ここを訪れた愛好家の方が、さらに沢を上ったあたりで得た標本に、水晶の日本式双晶がついていることに気づいた。何度か訪れるうち、2000年春に再び日本式双晶を見出した。その一つは三連になっていた。翌春 3月から沢に通いつめて 5月、沢を遡行して御荷鉾(みかぼ)スーパー林道にぶつかるあたりの、ガードレール下の露頭でついに晶洞を発見されたという(熱水変質帯の石英脈中)。崩落しかかった晶洞の中の水晶はほとんどが日本式双晶だった。上掲の書籍には「 90%近く」と書かれている。
ここから採集された双晶は独特の形状のものがあり、鳥形、キの字形、貫入式等と描写され、中には四連双晶も見られたそうだ。
三連、四連とは、一つの単晶を軸にして、複数の単晶が日本式双晶の関係で接合した形状を言うようだ。その配置によってより細分した呼称も提示されている。コの字型と呼ばれるものもある。双晶のサイズは概ね 10mm以下で、最大でも 25mmほどだったそう。

このページでは三ツ岩岳産の日本式双晶で、V字形、トの字形、十字形を紹介する。一応こうした呼称で分類したが、それぞれに個性的で、成長過程も単純でない(段階的)と推測出来るものが含まれている。

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