1003.水晶 鳥形三連双晶 Quartz Japan law twins (日本産) |
群馬県三ツ岩岳産の日本式双晶は No.997,
No.998, No.999 及び
No.1002
にさまざまなプロポーションのものを紹介した。先に書いたように、なにしろ非常に高い率で出現することがあり、一つの小さな母岩の表面を顕微鏡で眺めれば、あれも日本式、これも日本式といった具合に観察される領域がある。群発と言いたい感じである。
同時に単晶がさまざまな角度で交差複合した集合形が見られ、核生成から初期核成長のプロセスが、複核的に接合を繰り返しつつ進んだらしいことを窺わせる。日本式双晶関係での複合は、ランダムな単晶交差複合よりも高い頻度(確率)で発生したらしいこと、おそらくエネルギー的に有利であったことが推測できる。
ところで、一般に見る日本式双晶は平板状の2個体が、平板面を一致させて、ただし柱軸を傾けて接合した形をしている。No.979(水晶の圧電性)で示した座標系で表現すれば、一方の個体の
a1軸あるいは X軸(電気軸)と、柱軸を含む平面方向に、他方の個体がその柱軸を
84.5度傾けて接合した形である。 X軸は正負の方向で電気的特性が異なるから、今仮に正の側で日本式双晶関係で接合が起こるとすると、もとの個体の負側でも同様の接合が起こることはあまりありそうにないと思われる。
低温型水晶は3方晶系だから、もとの個体にさらに別の個体(3つめ、4つめ)が接合する時は、別の
a軸(a2, a3)の正方向に起こるのが順当と思しい。もっともその場合、3つめ、4つめの個体の平板面は、もとの個体の平板面と平行にならないが。
では、そうした3連、4連の双晶は実際に現れるのだろうか。頻度は通常の2個体のものより低いだろうから丹念に探してみる必要があるが、三ツ岩岳産にはこれに近い形の結晶形が知られている。ただし、ベースとなる個体は平板というより六角柱形になっているのが普通のようだ。第2、第3…の個体は平板状のときも六角柱状のときもある。
本ページの画像で下から2番目に示したのがこの形のもの。中央の個体を鳥の胴体と見立て、これから
120度の挟角で両側に突き出した平板状個体を双翼に擬えて、鳥形双晶、日本式鳥形三連双晶などと呼ぶ。ほかにグライダーの翼や、二本ツノに見立てた表現がある。
「鳥形」の呼称がいつどこで始まったのか、私はよく知らないが、昔の有名な(日本の)先達がすでにこの名で呼んだ双晶があったそうで、氏の薫陶を受けた後の採集家筋は、90年代にまず奈留島産の標本から、ついで長野県御陵山(おみはかやま)林道産、和歌山県五代松鉱山産から確認された上述の三連双晶形に宛てたようだ。三ツ岩岳産はこれらに次ぐ。さまざまなバリエーションやキの字型のものが報告されており、なかに他産地に見ない独特の形状があるという。
実例をあたってみると、中央にある個体の柱軸に対して二翼は必ずしも同じ高さで配置されているとは限らない。そして、(私としては困ったことに)、必ず
120度に開いているとも限らず、中には
60度で突き出したものがある。見る人によって 180度タイプの鳥形双晶と呼ぶものもある。これは十字双晶のバリエーションとも見えるが、貫入式の場合と比べて柱軸方向の高さが大きく外れていたり、傾軸の向きが中央の個体に対して上下逆さまの配置になっていたりする。
総合的に解釈すると、60度、180度といった角度を伴う多重双晶は、あるいはドフィーネ式の領域分布を伴う時間差複接合形と見るべきなのかと思う。そうすると翻って十字形の日本式双晶も、貫入式ばかりでなく、ドフィーネ式の時間差接合形が混じっている可能性を留保しておかなければなるまい。
ちなみに海外産では、80年代にブラジル産のものを堀博士が手元におかれていたそうで、後のツーソンショーでもこのテのブラジル産標本を見出されていた。私はフランス産、ペルー産、パキスタン産、マダガスカル産を、ネット上の画像に見たことがある。