99.ウェロガン石  Weloganite   (カナダ産)

 

 

ナトリウム、ストロンチウム、ジルコニウムの炭酸塩。ちょぴっと珍しい。お買い上げ、ありがとう。

ウェロガン石(ウィローガン石) −カナダ、フランコン石切場産

 

来歴。
十年近く前のこと。日本の鉱物コレクターたちが巡検と称して、カナダ、モントリオールの石切り場を訪れた。オルドビス紀に出来た石灰岩をアルカリ岩が貫いた鉱体で、1968年に記載された本鉱、84年に記載されたフランコン石などを産する特殊な産地である。

一行は当然のごとく、これら希産鉱物の採集にかかったが、残念なことにあまりいい標本にめぐり合うことができなかった。というよりも、収穫はほとんどないに等しかった。と、そこへ目つきの悪いオジサンがどこからともなくやって来て、ほれ、と差し出してみせたのが、写真の標本を含む、立派な鉱物標本の数々であった。限られた時間の中でスケジュールをこなす一行は、ボウズに終わった釣り人が魚屋でタイを買って帰るごとく、やや後ろめたい思いをしながら、オジサンの標本に手を出したのであった.......。

それにしてもあのオジサンは、冷たい風がびゅうびゅう唸る吹きさらしの中、来るとも知れぬコレクターを、いつもああして待っているのであろうかと、ひとしきり議論に花の咲いたことであった。

以上、この標本と一緒に譲りうけたお話。

 

追記:ケベック州のモントリオール(モンレアル)近郊にはいくつかの有名鉱物産地がある。泣く子も黙るモンサンチラール採石場はモントリオール島から東に30キロにあり、西に30キロ行くと希土類・希元素を含むオウカのアルカリ複合岩体がある。そして島の中にはウェロガン石で一躍有名になった石灰岩の採石場フランコンがあった。
島に石灰岩の巨大な露頭があることは17世紀頃から知られており、町の多くの建造物はこの石灰岩を切り出して作られた。それでモントリオールは石材の色調から「古き灰色都市」と雅称されたのだった。島の石灰岩は19世紀末頃から道路敷設材やコンクリート混合材、セメント材にも利用されるようになった。

後のフランコン採石場は 1914年に開かれ、いくたりかの所有者を経て、1966年にフランコン社の経営となった。その頃まで鉱物愛好家にとってほとんど無名の存在だったが、同年7月、知られざる標本産地を探し歩いていたカナダ地質調査局(GSC)のアン・フィリス・サビナ・ステンソンらが訪れて、石灰岩層に挟まるアルカリ火成岩中に結晶鉱物を含む晶洞があることに気づいたのである。その中に金色に光ってみえる見慣れない結晶があって目を惹いた。サビナらは多くの標本を持ち帰って研究にかかり、まずはこの数センチ大のおかしな形状の鉱物が新種であることを知った。
1968年、最終的に Weloganite と命名・記載された本鉱は、ジルコニウムの炭酸塩として初めて発見されたもので、そんな珍しい種でありながら比較的大きな結晶が大量に見つかったことで、地元紙に大々的に取り上げられてニュースとなった。
その名は GSCの財務役員ウィリアム・E・ローガン卿に献名されたが、採石場は GSCの主局からわずか2,3キロの距離にあり、またローガン卿の生家の農場の近所でもあったという。和名はウェロガン石で通っているが、由来からするとウィローガン石と発音すべきなのだろう。組成式は1975年に再検討されて Sr3Na2Zr(CO3)6・3H2Oと認められた。

翌1969年には第二の新種ドレッセル石 Dresserite (組成 BaAl2(CO3)2(OH)4・H2O) が発見され、フランコン採石場の名が愛好家間で高まる。以来1990年までに新鉱物10種が記載された。ドレッセル石(1水和物)の3水和物に相当する水和ドレッセル石 Hydrodresserite (1977)、ストロンチウム・ドレッセル石 (1977)、サビナ石 Sabinaite (1980)、フランコン石 Franconite (1984)、ドイル石 Doyleite (1985)、ホチェラガ石 Hochelagaite (ホチェラガはモントリオールの現地語旧名。1986)、モンロワイヤル石 Montroyalite (モントリオールのランドマーク、モン・ロワイヤル丘に因む。1986)、フォーグ石 Voggite (1990)。フォーグ石以外はいずれもサビナが原標本(または共標本)の提供者で、しかもこのうち5種は最初の訪問で得た標本から見い出されたという。大変なボナンザだった。

採石場が開かれた時分、周囲は農場ばかりだったが、60年代から都市開発区画に入り、やがて住宅街に変貌していった。こうした環境上の理由や、採集しやすい石灰岩を概ね採り尽くしたことから、採石場は1985年に閉止された。跡地は市局に売却されて冬季の雪捨て場となり、また都市廃棄物の集積場にも用いられているという。
その後も90年代にかけてズリからの採集が可能だったが、新しい切羽が出てこないので、いわゆる落ち穂拾いであった。現在は採集不可と言われている。

ウェロガン石(ウィローガン石)は間違いなく希産鉱物だが、フランコンでは沢山採れたことから、最近までストックがわりと出回っていた。三斜晶系だが、三方晶を想わせる形状の(コランダムに似た)晶癖を持ち、奇妙に発達した風姿が人気を呼んだ。結晶サイズも1〜5cm程度で手頃である。短波紫外線でオレンジ色、中波紫外線で黄緑色に蛍光する。砕くと青白い摩擦蛍光性(トライボルミネッセンス)の閃光を放つというが、まさかそんなことをするコレクターはいない。(2019.3.31)

余談だが、スコットランドのアバディーン市はグラナイト・シティと呼ばれ、街の主な建築物が花崗岩で作られている。

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