100.濃紅銀鉱  Pyrargyrite   (ペルー産)

 

 

もしかして、私のこと、菱マンガン鉱と勘違いしなかったでしょうね?

濃紅銀鉱 −ペルー、リマ、ウチュチャカ鉱山産

 

その頃は、鉱物種名がまだよく頭に入ってなかった。

ある標本商さんに遊びにいくと、ペルーから届いた荷物を開梱している最中だった。

「ちょうど良かった。これ、何だかわかりませんか?」と見せられたのが写真の標本だ。

ペルー特産の菱マンガン鉱の結晶標本を大量発注したのだが、届いたロットの中に2個だけ、このテの標本が混じっていたのだという。新聞紙にくるまれた標本と一緒に、しわくちゃのラベルが入っていた。青いボールペンでPIRARGなんとか(忘れた)と書きなぐってあったが、「図鑑を引いてもそういう鉱物はないんですよ」、と困り顔。

「さあ。見た感じ、辰砂みたいですけどねえ」
「うーん、やっぱりそうですよねえ。」
「でも、結晶形が違う気がしますねえ。」
「そうですねえ」

というわけで、埒があかないまま、荷解きを手伝った。標本を箱に入れて、陳列ケースに並べること数刻、ふと思いついて、
「そういえば、これみんなペルーからの標本でしたね。もしかして、濃紅銀鉱なんか仕入れてませんか」と聞いた。当時、私は濃紅銀鉱の標本を探していたのだ。

「ないですね。あるのは、四面銅鉱と方鉛鉱と黄銅鉱と菱マンガン....あ!」

私たちは、思わず顔を見合わせた。さっきの標本!
「濃紅銀鉱は国際名はなんでしたっけ?」、「ええとパイラルギーなんとかでしたよね?」
図鑑を引いて、ラベルの文字と照合してみた。綴り間違いはあったものの、ドンピシャであった。
おおお!と二人して感動したのはいうまでもない。記念に2個とも引き取った。
彼も私も、濃紅銀鉱を見るのは初めて、というわけではなかったが、まったく思いつきもしなかったのだ。

「これ、もっと仕入れたら売れるでしょうか?」
「ルビー・シルバーですからね。私みたいな人が買っていくと思いますよ」
「じゃあ、問い合わせてみましょう」

という会話をして別れたが、その後、ペルーの業者からは、濃紅銀鉱の標本はあの2個だけで、以後入手できる見込みはない、と返事があったそうだ。一体なんで、そんなものを(間違って)送ってきたんだろうねえ、と首をかしげあった。

懐かしい標本である。

追記:よくあるお話ですが、類似の標本はいまでも比較的安価に出回っています。2006.2.11
追記2:Pyrargyrite はPyro (炎)+ argyros (銀)に因む名。 ビューダンはギリシャ語の argyros + eruthros (赤)に因んで Argyrythrose と呼んだ(1832)。古くアグリコラはこのテのルビー・シルバーを Rotgultigerz と記した。
和田「金石学」の付録「金石対名表」には血ばく(金ヘンに百)と訳されている。血をイメージしたか。

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