122.エメラルド  Emerald   (コロンビア産)

 

 

やっほ〜、エスメラルダ〜!

エメラルド−コロンビア、ムッソー、ボヤカ産

 

含有するクロムによって美しい緑色を示すエメラルドは、緑柱石(ベリル)の中でも比較的珍しいバリエーションである。それというのも、主成分のベリリウムやアルミニウムが酸性火成活動と密接に関連した元素であるのに対し、クロムは塩基性の火成活動に伴われる元素だからだ。まったく性質の違う二つの活動が出会ったとき、この石は生まれた。
エメラルドは、非常な幸運に恵まれて初めて日の目を見た高貴な結晶なのであり、国際結婚で産まれた眉目秀麗な子供たちにもたとえることが出来よう。

写真の標本は、コロンビア、ムッソー(ムゾー)鉱山のもの。
この国のエメラルドは、一風変わった産状を示し、黒色の炭素質石灰岩や頁岩の中を網目状に走る白い方解石脈(一部ドロマイト)に伴って産出する。黒色母岩に含まれていたベリリウムやアルミニウムやクロムが、300℃以下の熱水に溶け出して、断層中の自由空間で結晶したため、他産地のものに比べて純度が高く、キズも少ない。
ところで、これら「国籍の違う」元素が、何故同じ母岩(堆積岩)中に存在したかについては、今もって確かなことがわからないそうだ。市場の過半を占めるというコロンビア産のエメラルドは、実は、かくミステリアスな由縁の宝石なのである。

一方、No.121で紹介したオーストリア産のエメラルドは、雲母片岩を母岩としていた。クロムを含む塩基性の蛇紋岩とベリリウムを含む酸性岩(白雲母とガーネットの結晶片岩)とが接触し、変成作用によって金雲母片岩が出来、その中に晶出したのである。ウラル山脈やその他の産地のエメラルドも、類似の広域変成作用によって生じている(産地によってペグマタイトを伴う)。

というわけで、「耳をすませば」のエメラルド原石は、オーストリア産かもしれないし、ウラル産かもしれないが、少なくともコロンビア産ではないこと、産状の違いから、お分かりいただけたろうか?

補記:ちなみにこのタイプの標本はときどき市場に出ているが、母岩に単結晶がついているタイプの標本と比べると、相当に安価だと思う。もしかして天然結晶ではないのじゃないかと疑うのだが、まずは世界的鉱物商のラベル付けに敬意を表することにしておこう。

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