132.緑柱石 Aquamarine   (ブラジル産)

 

 

アクアマリン Aquamarine

アクアマリン−ブラジル、ミナス・ジェラエス産
岡本/木下「鉱物和名辞典」によると、
鹿児島県屋久島の緑柱石に「ビンタ切れ」の名があった。
ビンタは頭のことで、水晶のように六角柱だが頭が
尖らずに切れているからだという。

 

アクアマリンは、美しい海緑色(シー・グリーン)〜水色(ウォーター・クリアブルー)の六角柱状結晶をなす。19世紀には、緑色を帯びたものが尊ばれていたが、いつの頃からか、嗜好が変化した。今ではアクアマリンというともっぱら水色で、これぞ純粋な海の色の宝石とされている。海に沈めると、まわりの色に溶け込んで見えなくなってしまうそうだが、もしかすると、この100年間に、海の色も海緑色から水色に変わってしまったのかもしれない。

主産地であるブラジルの石は、ほとんどが写真のように緑色がかっているので、熱処理によって、綺麗な水色に変えて宝石市場に送られる。この標本は、中央に入ったクラックのお陰でカットされる運命を首尾よく免れた、長さ約10センチの結晶。
無用の者たれ、と教えた古代聖人の声が聞こえてきそう。

 

補記:「びんた切れ」という石言葉がある。鹿児島県屋久島では、柱面と底面からなり、錐面(斜めの面)を持たない緑柱石をこの名で呼ぶ。「びんたとは頭のことで」、「水晶の頭がないものとの意であろう」と長島父子は述べている。
西海岸の永田から入ったところに産したが、「今はそのありかがわかりません」と「鉱物採集の旅 九州南部編」(1977)にある。
ちなみに新潮国語辞典などを引くと、びんたは@頭部のびんのあたり、A頬を平手打ちにすること、とある。元は頭部の側面箇所を指したと思われる。びんた打ちは横っ面をはたくことか。
怪談牡丹灯籠に「私(わっち)のびんたを打切る権幕」という言い回しがある。打ち切られてびんたが飛んだのが、びんた切れか。こええ。

補記2:アクアマリンは花崗岩ペグマタイトに産する代表的な宝石鉱物だが、日本のペグマタイト産地にもアクアマリンと呼びたい美しい水色のベリル(緑柱石)が出たことがある。佐賀県富士町杉山の佐嘉(さか)鉱山である。1943年に発見された緑柱石の産地で、淡青色透明の美晶を産した。往時は径1cm長さ数cm(最大のものは3x8cm)のものがあったが、「鉱物採集の旅 九州北部編」(1975)の時分には、鉱山跡のズリの石英中に長さ1cmほどのものがたまに見つかったという。

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