133.フォスフォフィライト Phosphophyllite (ボリビア産ほか) |
亜鉛(と鉄・マンガン)の燐酸塩鉱物で、強いて訳せば、「燐葉石」。燐酸を含み、完全なへき開があることから命名された。上の写真は、原産地ドイツ、ハーゲンドルフ産の標本。下の写真は、ボリビア、セロ・リオ産の石。ドイツ産と比べるとマンガンをほとんど含んでいないため、独特の爽やかな青緑色をしているのが特徴だ。
セロ・リオでは1930年代の初め頃から、鉱夫たちの間で美しい青緑色の結晶が知られていたが、1957年になるまで、宝石としての値打ちには気づかれなかった。その間、彼らは大きな結晶をハンマーで小割りして、子供の玩具に与えていたという。
宝石級の石が採集されたのは、ユニフィカダ鉱山の運搬トンネルから300m下ったクラウス脈の第7〜10レベルだった。その後、坑道は放置されたまま、換気もされていないため、今では黄鉄鉱の分解で生じた強酸と反応熱とがこもって、致命的な空間になっているという。噂によると、1996年の3月、3人の鉱夫がフォスフォフィライトを探して坑道に降りていったが、少なくとも一人(全員という話もある)は、窒息死したそうだ。
写真のルースは、かなり以前に採集された原石からカットされたもの。液体インクルージョンを含んでいるが(下半分)、この石としては悪くない方らしい。業者さんの話では、最近採れた数個の原石はキズが多く、一緒にカットに出したが、ことごとく割れてしまったという。
また、分離した結晶片は時々出回っているが、母岩付きの結晶には新しいものがなく、70年代までに採集された品が流通する程度という。
追記2:最近、比較的たくさん出回っている、以前とは少しタイプの違った標本についての情報。新しいタイプの石はもとの場所から60キロほど離れた堆積層に出るものという。本鉱のトレードマークである双晶は共通しているが、もとの産地の結晶より透明度が低く、結晶表面には黄褐色の付着物がついていることが多い。母岩は砂岩である。比較的大きな塊状、脈状のものも出ている。一方もとの産地では母岩は火成岩で、上の標本のように水晶を伴っている場合もある。(2011.4.29) …買ってみた。一番下の画像がそれ。 cf.No.753
追記3:なにしろボリビア、セロ・リコ産の結晶が宝石品質と折り紙つきなのであるが、60年代に声望が定まる以前は、良晶の産地といえばドイツのハーゲンドルフだった。本鉱の原産地(1920年記載)で、チェコとの国境に近いバヴァリア東部のオーベルファルツ地方にある。
北側(ハーゲンドルフ・ノルト)のペグマタイトの露頭は
1860年頃から露天掘り鉱山が開かれ、カリ長石を採掘して地元の窯業原料に用いられていた。1894年、その南(ハーゲンドルフ・ズュート)で道路工事中に燐酸に富むペグマタイトが発見された。以来2つのペグマタイトは
1983年に閉止されるまで、露天掘り・坑道掘りを組み合わせて長石の採掘が続いた。南ペグマタイトは本鉱やウロー石、トリフィル石など、さまざまな燐酸塩鉱物を輩出した。閉山してほどなく水没した。
フォスフォフィライトは塊状雲母中の晶洞にトリフィル石と共に発見されたが、その後、トリフィル石-リチオフィル石の風化で生じたとみられるさまざまな二次燐酸塩が潤沢に出たのに比べて、ほとんど採れなかったという。おそらく初生鉱物として生じたと考えられる、とポー博士は述べている。一方、別の文献には、閃亜鉛鉱が風化した茶色の土質中にショルツ石(原産地)、パラショルツ石(原産地)、フェアフィールド石、土状の藍鉄鉱などを伴って産したとあり、4cmに達する結晶が採れ、標本の多くはV字双晶だったという。
mindat には北ペグマタイトの産出鉱物として55種が挙げられている。うち
3種の原産地で、その1つが本鉱。南ペグマタイトは同じく
186種。24種の原産地で、フォスフォフィライトは南ペグマタイトにも出た。いずれにしても今日入手の難しい標本の一つである。
なお、Phosphophyllite
の読み方だが、フォスフォフィルアイト: fos fo FILL ite
とポー博士はわざわざ断っているので、多分たいていの(英語圏の)人がフォスフォフィライトと読んでしまうと思われる。
同工の語源を持つ魚眼石 Appophyllite
の発音をシンカンカス博士はアポーフィライトとしており、アポーフィルアイトと読むのはやはり面倒っちいのではないか。(2019.3.31)