162.自然金 Native Gold (イギリス産) |
自然金はときどき結晶し、正八面体の面影を宿した珍奇な形を見せてくれる。
写真の標本は、ホープス・ノーズというところで採集された樹枝状の結晶。イギリス伝統の綾杉模様に因んで、「ヘリンボーン(矢はず形)」ゴールドと呼ばれることもある。
産地は風光に恵まれたデボン州の南海岸の岬で、リゾート滞在エリアから500mほど遊歩道沿いに険しい崖を降ったところにあるという。石灰岩を切る方解石の脈の中に金が含まれている。発見史を述べれば、1922年の4月、ロンドンにあるキングズ・カレッジのゴードン教授が、生徒を連れてデボン紀の地層を巡検に来たのが発端。氏が露出した方解石の脈にハンマーを当てたところ、明瞭なへき開を示して割れるはずのものが、そうならなかった。おや?と見ると、方解石のかけらを金がバネのように繋いでいたという。しかし一行は本来の研究に忙しく、詳しい調査をしないで引き上げた。
この話を聞いたサー・アーサー・ラッセルという収集家が1927年に岬を訪れ、5つの方解石脈から結晶質の金を採集した。彼は翌年もやって来て、最も有望そうな脈を選んで本格的に露頭を砕き、素晴らしい標本を得た。そのいくつかは、現在、大英博物館にあるそうだ。
この後、約半世紀の間、ホープの鼻は忘れられていたが、1970年代後半に、地元のコレクターが大英博物館でラッセルの残した覚え書を発見した。そして、岬を叩きまわった結果、3,4年の間に手が届く範囲の金をすべて取り尽くした。今では海にせり出した崖など、近づくのが困難な場所にだけ脈が残っているという。学術的に貴重な地層だというので、保護区域に指定されているが、いまさら、という感じは否めない。もちろん、放っとくよりはいいのだが。
なお、この産地の金は、若干量(〜16%)のパラジウムを含むことでも有名。パラジウムの量が多いものは銀白色に近くなる。