169.蛍 石  Fluorite   (USA産)

 

 

ここで会ったが百年目、今をおいてはもう手に入りませんよ。なんてね。

蛍石 −USA、NY州ウェイン郡ウォルワース産

 

ニューヨークの標本商の言葉を鵜呑みにして講釈すると、
「これはただの蛍石ではない。まず透明度が非常に高い。これほど透明な蛍石は珍しい。しかも、結晶の中に帯状のクラックが入っている。これはかなり特殊なものなのだ。10数年前、ニューヨークで発見された時には、ミネラロジカル・レコード誌の表紙を飾った。以来絶産で幻の標本だったが、昨年、私(標本商のこと)は、4個だけ採集に成功した。1個は手元においてある。1個は昨日GIA(アメリカ宝石学協会)がサンプルとして買っていった。あと、2個、ここにあるもので全部だ。今度はいつ採れるかわからない。あなたは運がいい。」

そう言われて、食指の動かない鉱物愛好家があろうか。いや、ない。
しかしそれから数年後、日本のフェアでも同類が出品されているのを見たから、この話、どこまで真に受けていいものか、今となっては少し怪しい。(帯状のクラックの入ったものは確かに見ないが)

 

追記:ニューヨーク州中西部のモンロー郡やウェイン郡には苦灰石(ドロストーン)を主成分とする岩石相が分布しており、1920年来いくつかの採石所が断続的に稼働されている。シンプルなサイコロ型の蛍石結晶を産し、無色・淡黄色・淡青色・淡赤紫色などさまざまなものが知られる。
なかでロチェスターの東にあるウォルワースの砕石採集所は 1962年に開かれ、いまも現役らしい。この鉱山の無色〜ごく淡い青色のサイコロ状蛍石は、米国東部のコレクターに熱烈に支持されているそうで(つまり地元びいき)、普通は3cm以下のサイズだが、時に 7cm に達するものがある。方解石、天青石、石膏、苦灰石、閃亜鉛鉱などと共産する。
1995-96年にかけて、南東壁面に硫化鉱物に富む岩相が露出し、上述の各鉱物の特上標本を出した。この時の蛍石は輝きの強い無色のサイコロ形で、画像の標本もその一つだったと思しい。帯状のクラックはやはり珍しいもののようである。 (2020.5.3)

MR誌52-4号(2021年)にウォルワース採石場の特集記事が載って、幾多の蛍石標本が紹介されているが、帯状インクルージョンを持つものはなく言及もない。 (2021.12.31)

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