170.黄鉄鉱 Pyrite (ドイツ産) |
鉄と硫黄が化合した鉱物で、わりとどこにでもある。
ヨーロッパでは、昔、この石の中に炎が宿っていると信じられた。学名のPyrite は、ギリシャ語で「火の石」の意味。早くから火打ち石として使用されたことを反映している。もっとも当時は、黄銅鉱も白鉄鉱も、打つと火花の飛ぶ石はみな一絡げに Pyrite なのであったが。
上の標本は、十字形に貫入双晶した結晶で、俗にアイゼン・クロイツ(鉄十字)という。ドイツ人は結構好いているらしい。
下の標本は、ペルー産の八面体結晶。黄鉄鉱は、何十種類もの結晶形をとりうるが、八面体はまあまあ珍しい方だ。
cf. ヘオミネロ2
追記:ハノーバーの南西約65キロのフロートーの町の周囲には灰白色の泥灰岩の露頭が無数にあり、その中に散らばる黄鉄鉱はいわゆる「鉄十字」型に双晶している。「鉄十字」は中世のドイツ騎士団以来の紋章に因むデザインで、ドイツの伝統文化を体現した形象といえようか。
「鉄十字」黄鉄鉱は少なくとも1世紀前から知られており、今でも地元コレクターが周辺の森林地帯や切り通し道路の露頭で採集を楽しんでいるそうだ。
レムゴーはフロートーから20キロほど南の町で、 1980年代後半まで稼働していた採石場がある。画像の標本はそこから出たものらしい。普通は
1cm以下のサイズだが、大きなものは 5cm に達する。
2006-2007年には周辺地域3ケ所から美麗標本が採集されて、市場に出回った。つい昨年もいくつかの新産標本をネット上に見た。鉄十字、現役である。(2020.5.3)