220.束沸石  Stilbite (インド産)

 

 

束沸石と魚眼石−インド、プネー産

 

インドのデカン高原は沸石の大産地だ。玄武岩の晶洞に各種の沸石や魚眼石がびっしり生えている(らしい)。
西インドのさるお金持ちの家で、一抱えもある大きな岩に沸石のついた置物を見た。その方は別段、鉱物が好きというわけではなかったが、ガレージの脇に岩を並べ、車を乗り降りするたび眺めて楽しんでいるようだった。ある日、岩の前を通ると、使用人が水の入ったバケツを片手に、せっせとハケを動かしていた。何をしてるのか?と見ると、ハケに水を含ませ、束沸石(たばふっせき)に塗りつけているのだった。

「多分掃除してるんだろう、なにしろインドは埃っぽいから」と通り過ぎたが、後で考えると、案外ちゃんとした手入れ法だったように思える。沸石の類は、結晶構造中に水の分子を取り込むのが特徴で、これを「沸石水」という。熱すればもちろん、常温でも乾燥していると水分が徐々に逃げ出していくことがある。すると結晶が濁ったり、色褪せたりする。濁沸石などは水に漬けて保存しておく愛好家もいる。その使用人は、週に一度は水をやりなさいと教えられていたのかもしれない。なんだか庭師の仕事みたいだが、鉱物でも水やりが必要なことがあるわけだ。

上の標本は、サーモンピンクの束沸石が無色透明の魚眼石上についたもの。右側の結晶を見ると、なんとなく束になっているのが分かるだろう。長さ約3センチ。

付記:標本の産地をプネーとしていますが、「このタイプの透明の両頭式の魚眼石が出るのは、Jalgaon市近郊、Sawda村とほぼ断定できます」と I さんからご教示戴きました。おそらく、標本ラベルが間違ってるのでしょう。いつもありがとうございます。2003.1.7

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