219.テルル石 Tellurite (メキシコ産) |
テルル鉱床の上部酸化帯に生じる黄色のテルル酸化物。テーパ板状の結晶になることが多いが、柱状〜針状になることもある(写真は柱状結晶が連なっている)。
この標本は、ある鉱物商さんが採集旅行でメキシコに行ったとき持ち帰ったもの。一週間後に控えた即売会の目玉にとっておきたかったらしいが、お金を差し出すと標本を渡してくれたから、取引成立である。ほとんど市場で見たことがないので貴重品扱いしているが、モクテスマはテルル鉱物のメッカといわれる有名産地であり、現地ではそう珍しくないようだ。
テルルの二次鉱物はカラフルな色合いのものが多く、その化合物は陶磁器、エナメル、ガラスの赤や黄色の色づけ材料に用いられるという。テルルにして、もっともなことであるよ。
cf. No.732 (テルル石)
追記:テルル石は二酸化テルル TeO2の鉱物で、結晶構造は直方完面。同質異像の正方対掌半面の種をパラテルル石と呼ぶ。一般にテルル石は黄色のものが多く(条痕は白)、結晶形はc軸方向に伸びる柱〜針状。柱面はテーパ状に細ってゆくことが普通で、時に板状になる。パラテルル石は白〜無色で、結晶形は正方短柱状だが皮膜的に産することが多い。テルル石を置換した仮晶をなすことも普通にある。
楽しい図鑑2のテルル石の項に、「なめくじのはった跡」のように光っている箇所はパラテルル石と紹介されているが、屈折率が高いので皮膜でもよく光るのである。
テルル石は硬度2で軟らかいが、パラテルル石はさらに軟らかく、硬度1あるいはそれ以下。
メキシコのモクテスマ鉱山(バンボーラ鉱山)は 1930年代中頃から1960年代中頃にかけて稼働されたテルル鉱山で、鉱体のあちこちに散らばる石英の晶洞中に 2cmに達する橙〜黄色のテルル石の放射状結晶が見られた。2000年代、ヨーロッパの採集家グループが本鉱を目当てに廃坑を探査したことがあり、この時期に若干数の標本が日本市場にも回ってきた。(で、手持ちの品を貴重視していた私はちょっとがっかりした。) (2020.12.30)
追記2:日本ではテルル石やパラテルル石の肉眼レベルの結晶標本は、静岡県の河津鉱山と北海道の手稲鉱山でしか見つかっていない、と鉱物採集の旅東海編(1977)にある。「日本の鉱物」(1994)には両産地の標本が揃い踏みしている。